短編

□遅刻厳禁なんて言わないから
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28回目の嘘
に企画参加した作品です。


3、2、1。これで遅刻総計20回目。わー丁度ピッタリな数字だ。おめでとう。現在お昼を超えた午後十三時十五秒。今日もスクアーロは遅刻だ。仕事で忙しいのは解っているけど先に誘ってきたのは向こうだ。それならちょっとぐらい早く来たら良いのに。全然紳士的じゃない。やっぱりカスアーロだから学習しないのかな。うん、カスアーロだから仕方ないな。
どうせ今日もまた一時間ぐらい遅刻をするのだろう。私は待ち合わせの近くにあるカフェへと行く事にした。天気も良いし、どうせならと外のテラスに出た。私は定員さんにエスプレッソとケーキを頼むとパソコンを取り出した。よいしょっと。カスアーロ……いや、スクアーロはまだ来ないのだ。その分暇になるのなら仕事でもしといた方が良いだろう。私は、情報屋としての仕事を二つ程終わらした。

ゆっくりと時間を掛けてエスプレッソを飲み干した頃に、奴は漸く顔を出した。あ、凄い慌ててる。

「う゛お゛お゛い……」

「あれ、何処からか叫び声が聞こえてきたなー」

「あの、よ……悪かったから」

「ヤバい。何もないのに声が聞こえてきた。これはもう本格的にヤバいのかな。最近仕事で忙しかったからなー。ザンザスも人使いが荒いっつーの」

まるでスクアーロの姿が見えていない様に言うと、スクアーロは悲しそうな顔をした。しかもオドオドしてる。何これ、面白い。

「仕方ない、スクアーロも来ないしお会計して帰ろう」

「う゛お゛お゛い!」

「………あれ、カス……スクアーロ居たの?ごめん、気付かなかった」

強硬手段に出たのか、スクアーロは得意?の大声を出して私の腕を掴んだ。若干声が震えていたけど。手加減をしているだろうが、悲しいのかな。スクアーロの腕が小刻みに動いてる。

「お、おい………」

「スクアーロ、ごめんね。私今から会計行ってくるから」

「……そんなもん俺が払ってやる」

他の人が見たらクールで格好いいと思うだろうその姿。だけど普段のスクアーロを知っている私にとってはなんだか面白くて笑ってしまった。ごめん、スクアーロ。
とりあえずこのままでは埒が明かないのでスクアーロを押しのけて会計をした。すると、スクアーロはさっきより悲しそうな表情になった。

「今日は、その……」

「どうせ任務でしょ。ザンザスから聞いてる。それに血の匂いがするし目の下に隈がある。気付かない方が無理がある」

「……………」

「スクアーロ、私は別に怒っていないよ。数十分、約束の時間よりたった数十分遅れただけだもの。例え今日が遅刻総数20回目だとしても、ね」

「……それ、怒ってるだろぉ」

「怒ってないよ、スクアーロ。仕事だもの、仕方ないよ。例えスクアーロから出掛けようと持ち掛けてもね」

「……………」

これ以上スクアーロをいじったらどうなるかな。泣くかな。いや、でもスクアーロに限ってそんな事はないな。そりゃあスクアーロの泣き顔は見てみたいとは思うけど。

「ほら、早く行くよ」

「お、おう……」

たじろぐスクアーロを余所に、私は腕を引っ張り歩き出した。久々のせっかくのデートだ。これ以上時間を無駄にはしたくない。スクアーロの腕を引っ張り、道を歩く。あ、ジェラート発見。ここのジェラート美味しいんだよね。よし買おう。

「スクアーロ」

「な、なんだぁ」

「ジェラート買おうよ。スクアーロは何味だっけ、えっと…………鮫味?あ、フカヒレか!」

「ふざけんなよぉぉ!俺は」

「ははっ。私ストロベリーにしよっと」

「人の話を聞け!」

ストロベリー楽しみだなー。あ、他にも種類ある。どうしよう、凄く悩む。うーん…。
私は目の前のジェラートの種類を見て悩んでいる内に掴んでいた筈のスクアーロがどっかに行った事に全く気付かなかった。そしてそれに気付いたのは約二分後の事だった。

「……ほらよ」

スクアーロの声にハッと顔を上げた。すると、目の前に出されたジェラートを見て驚いた。開いているもう片方の手には薄い黄色のジェラートがあった。スクアーロのかな。

「あれ、スクアーロの腕が無い」

「お前が悩んでるから気付かなかったんだろうがぁ」

なるほど、そう言われれば納得してしまう。私は悩めば周りが見えなくなるからなー。
というか私が悩んでる内にジェラートを買ったのかな、スクアーロは。まだ全部の種類見てないのに。

「えー……私まだ決めてないのに買ったの?」

「お前はどうせストロベリーと洋梨だろぉがぁ」

「……………」

そう言いながら私の手に持たされたジェラートは、私の大好きな組み合わせだった。なんだかな。こう私の好きなのを知ってて買うって………恥ずかしい。私は、ジェラートを一口食べるとスクアーロのを見た。

「……それって何味?」

「レモンとライムだぁ」

酸っぱそうな組み合わせだなと思った。でも、スクアーロの好きそうな味だ。レモンはあまり好きではないがライムは食べてみたい。私は目一杯背伸びをしてスクアーロのジェラートを食べた。

「あ、ライム美味しいね」

「おおおお前!」

「何よ、一口ぐらい良いじゃない」

「そうじゃなくてだなぁ!」

何怒ってんだか。スクアーロは顔を真っ赤に染め上げていた。一口ぐらい別に良いじゃん。スクアーロのケチ!

「ほら、私のもあげるから。食べかけだけど」

「い、いらねぇ!」

若干涙目ながらも必死に断るスクアーロ。なんだなんだ。………もしかして間接ちゅーが恥ずかしいのかな。スクアーロに限ってそんな馬鹿な………ね、嘘………だよね。
今までの動きを見返すと、そんな素振りを見せていた所があった気がする様なしない様な。えーマジでかー。

「あのよ……」

「なに」

流石に遅刻20回目がきたのだろう、今日のスクアーロはずっとオドオドしている。

「次は遅れねぇ……」

「へー。まぁ、期待はしないでおくから」

「んなっ!?そこは期待しとけぇ!」

いつもと比べてかなり大きめなボリュームで話すスクアーロ。
えー別に遅刻しても構わないじゃない。だってわざわざ忙しい時間の間を縫って来てるんだから。

「ま、せいぜい頑張ることね」

期待は全くしてないけど!と元気よく言ったら叩かれた。後でしばいてやる。もしくはザンザスに頼んで仕事増やしてもらおっと。
私は、まだ顔が赤いスクアーロの顔を見ながらニヤリと笑った。





遅刻なんか気にしなくて良いのに





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