短編

□どきどきわくわくうずうず
1ページ/1ページ



君のとなり
に企画参加した作品です。


朝起きると、わたし以外家に誰も居ませんでした。確かに今日は日曜日だけどさ、流石にそれはないんじゃないかな。リビングのテーブルの上にあったメモ用紙には『出掛けてきます。家族一同』と書いてあったし。何が家族一同だ。わたしを忘れているよ。しかもこのメモだけだとどこに出掛けていつ帰ってくるかも分からない。

「うぅ……暇すぎる」

とりあえず空腹はスルーしてパジャマを着替えとこう。ほら、休みの日って気持ちいつもより宅配便多いから。

ピンポーン

「あぁ、思ってるそばから!」

早いって来るのが!今何時だと思ってんの。あ、十一時…普通ですね、はい。すみません。この際パジャマでも構わない。早く出てサイン書いて荷物貰ってご飯食べようではないか。

「はーい、どちら様……………さようなら」

「ちょっ!何俺の顔見て閉めんだよ!おい、開けろって」

「やっば、視力落ちたかな。最近夜中ゲームしてるからな。よし、今日は寝よう」

ここ一週間テストが終わったから調子乗ってゲームしてたからかな。なんだか扉の向こうによく見ている顔が見えた。あ、もしかしたら幻覚かもしんない。

「おい!」

「えー。なんで悠一がいんのさ。わたしの休日返せ。ついでに朝飯も」

「ふざけんなよ!つーか朝飯に関しては俺絶対無関係だよな!?いいからここ開けろって。近所のおばちゃん達がこっち見てんだよ!」

「あ、すいませーんこの人変質者なんで通報してくださーい」

それから色々あったが、とりあえずあのままではいけないと思い心優しいわたしは嫌々ながらも、嫌々ながらも!悠一を中に入れてあげた。すると、幼なじみである悠一は中に入るやいなやソファーでくつろぎ始めた。まじ帰れ。

「ねー、あたし着替えてくるからそこで待っててよ」

「りょーかい!」

こいつは本当に分かっているのだろうか。わたしが階段を上ろうと一歩踏み出した途端、悠一は我が家かのようにテレビをつけた。確かに待っててよとは言ったがそれは些か寛ぎ過ぎではないか。着替えたらとりあえず殴ろう。最低でも一発。それは、わたしの脳内で勝手に決定された。

「よし、出掛けるぞ」

「は?ふざけんなよこの馬鹿が」

着替えてきて、いざ頭の頂を殴ろうとしたら突然言われた。何それ。聞いてないんだけど。メールすら来ていないし。え、普通出掛けるとかって数日前に連絡入れるよね、普通。あーもー。本当に馬鹿だこいつ。

「で、とりあえず聞くけどどこ行くの」

「んーっとね………」

「決めてないんかい!」

「違うっつーの!ほら、映画のタダ券!じぃちゃんから貰ったんだ。早く行こうぜ」

いそいそと取り出してわたしの前に出してきたのは映画のタダ券。えー悠一絶対寝るじゃん。じっとしていられない悠一でしょ。野球で走り回ってる悠一でしょ。無理だって。

「あんたちゃんと起きてんの?」

「大丈夫!この日のために俺昨日からぐっすり寝た!」

「はいはい、じゃあ行きますか。ついでに朝飯奢ってね」

「わぁーったよ!」

ぶっきらぼうに言う悠一を余所に、わたしは鞄を持った。そうして、わたしと悠一は映画館へと向かったのだった。

映画館につくと、わたしは自販機で飲み物を買った。勿論悠一のお金で。朝から何も口にしていないわたしは、ついさっき買ったジュースを殆ど飲み干した。

「あ、俺もそれ飲みたい」

「なんで早く言わないの。もう殆ど飲み干したんだけど」

「良いよ別に」

悠一に渡すと、勢い良く飲んでいた。そんなに喉渇いていたのだろうか。まぁいいや。ゴミになったペットボトルを捨てにいく犬のような悠一を横目に見て、わたしは今上映されている映画を見た。すると、わたしが好きな洋画の最新シリーズがやっていた。帰ってきた悠一にこれが見たいと言えば、わかったとの、一言。どうやらわたしがこのシリーズが好きだということを覚えていたようだ。

「悠一、ポップコーンとジュース(L)とポテトよろしく」

「マジデカ」

「帰ったら新しく買ったゲーム貸してあげるよ」

「行ってきまーす!」

本当、悠一は扱いやすいな。走り去る悠一を見てそう思った。ていうかなんでわたしを誘ったのだろう。もしかして野球部に友達が居ないとか。まさかね、悠一に限ってそんな訳ないし。この前だって遅くまで遊んでたって言ってたし。単なる都合が合わなかっただけだよ。悠一のお友達さんには悪いけど映画は見させてもらうよ。なんたってわたしが前から見たいって悠一に言ってた映画なんだから。
そうこう思っている内に悠一がお盆を手に帰ってきた。早いな。流石にお金払わせて荷物までも持たせるのは心苦しい。よし、持とう。そう思ったら行動は早かった。わたしは、悠一の持っているトレイを掴んだ。

「持つよ」

「えぇっ!?もう中に入るから良いよそんなの。俺が持ってくからさ。何、いきなりどうしたの」

「いや、お金払わせてそんでもって荷物持たせるのはちょっと心無いかなって思ったから。あっポテト美味しそう。うま!こうなりゃここで消化していこうか」

「いやいやいや、お前せめて映画見ながら食べようよ」

えー。でも空腹に勝るものはないのだよ、悠一。もぐもぐ。ポテトうまっ。やっぱり揚げたてが一番だよね。なによりこの絶妙な塩加減がなんとも言えない。美味しいからこそ、映画を見ながら食べたい。でも我慢出来ない。そんなわたしの行動に呆れている悠一の口に向かってポテトを放り込む。

「ぐほっ、いきなり何すんだよ!……うめぇ!」

唐突なことに対処出来なかった悠一は、少し咳き込みながらポテトを食べた。噎せたときに若干涙目になったのが凄いそそった。あれ、わたしSだったかな。うーん…悠一に対してだけかな。そうだね。
勝手に自己完結したわたしは、悠一の腕を掴んだ。

「早くいこー」

「あの、俺まだポテト食べてるんだけど」

「知るか」

食べるの遅いなぁと思いながら、悠一の腕を引っ張っていく。途中転びかけたけど悠一が咄嗟に守ってくれた。両手塞がってんのに器用だな。ありがとうと言えば、悠一はおぉーと顔を赤くして返事した。暑いのかな。あ、席みっけ!真ん中の一番後ろ。随分前に悠一と来たときは端っこに座って見にくかった。それに苛ついて悠一のジュース全部飲んだんだっけ。懐かしいな。

「よいしょー。ポテトポテトー」

「お前ポテト好きだよな」

「当たり前じゃん。むしろポテト嫌いな人がいたら見てみたいよ。あ、悠一のジュース頂戴」

返事も聞かずに、さっきまで口にしていた悠一のジュースを飲む。すると、横で悠一がほんのり頬を染めていた。

「どうしたの。顔赤いよ」

「気ノセイダ」

「しかもカタコトだし」

「気のせいだって!」

そんな怒鳴らなくても良いじゃないか。気になったから聞いただけなのに。悠一のバー…あぁぁわたしのポテトが!
悠一が、むさぼってるよ、わたしのポテト。(字余り)
でもこれは悠一のお金で買ったポテトだし。いや、でもわたしのポテトでもあるし。…ポップコーン食べよう。味は勿論キャラメル。むしろキャラメル以外受け付けない。塩なら多めにみるけどカレーとかは嫌だな。たまにポップコーンってもっきゅもっきゅってなるよね。………。

「もっきゅもっきゅ」

「うわぁ!ビックリした。何、いきなり。どうしたの」

「ポップコーンってさ、食べたらもっきゅもっきゅってなるよね」

「あぁそう。………おい、きゅっきゅだろ。もっきゅもっきゅって何だよ」

「あんまし変わらないからいいじゃん。あ、悠一静かにして。映画始まる」

やっとはじまった。映画が始まるまでの間でポテト食べ終わったよ。わたし本当にお腹空いてたんだな。もっきゅもっきゅ。

映画がクライマックスになってきた頃、右肩が重くなった。ギギギギと首を動かすと、わたしの肩を枕にして寝ている悠一がいた。やっぱ寝るじゃん。悠一洋画とか好きじゃなさそうだしな。仕方ないっちゃあ仕方ないけど。
その後からは、すぐ隣に悠一の顔があると意識してしまい映画に集中出来なかった。悠一このやろう。

「―……ち、悠一…起きろぉぉー!」

「ん、あれ?」

「『ん、あれ?』じゃない!早く起きないと置いて行くからね」

ゆっさゆっさと悠一を揺らして早数分。ようやく起きた。わたしは、食べ終わったゴミをトレイの上に置きそれを持った。
しばらくすると、悠一は目が覚めたのか大きな欠伸をしながら立ち上がった。

「ん、」

「『ん、』で通じると思ったら大間違いだよ。わたしはあれか、お化け屋敷に住んでる姉の方か」

「ふわぁぁ…荷物…」

「これぐらいわたしが持つから平気だよ」

そう言うや、わたしは出口の方へ方向転換した。そしたら悠一が肩を掴んだ。あのー進めません。
文句を言おうと悠一の方を振り向くと、そこには真剣な表情をした悠一がいた。なんだなんだ。

「これぐらい持たせろよ」

「だったらわたしが持つよ。これぐらいなんだから」

「だから!今日ぐらい格好つけさせろよ!」

「え、」

顔を真っ赤にした悠一。野球の練習中、疲れ果てた時に顔を赤くしているけど、それ以上に真っ赤だ。

「悠一……」

「な、なんだよ!」

「悠一は野球してる時が一番格好良いよ。だから今日ぐらいカッコワルくても良いんじゃないかな。例え俺は絶対寝ない!みたいなことを口にしといて結局寝たとしても。ついでにわたしの肩を枕にして」

「なんか最初は良い感じのことを言ってたのに途中から悪口みたいになってる!つーか俺そんなことしてたのか!?恥ずかしい…」

両手で顔を覆っている悠一に笑うと、悠一は少し涙目になってた。面白いなー。

「俺だけドキドキしてんじゃん」

「え、なんか言った?」

「なんにも!!」

本当は聞こえてたけど、悠一が面白くてつい聞き返してしまった。きっと言ってはくれないだろうけどね。だってこんなにも恥ずかしそうな顔をしているんだから。

「まーわたしも悠一が肩を枕にしたときはドキドキしたけどね」

「え!もっかい言って!」

「却下。ほら次はゲーセン行こう。勝負して負けた方が昼飯奢りね。ちなみにわたしが勝つまでやるから」

「何それ酷い!」

わたしが勝つまでやるって言っても、普段からゲーセンに行ってるわたしと野球ばっかやってる悠一。勝つのは見え見えだ。まぁ悠一は胴体視力とかいいから関係ないと思うんだけど。あ、結局トレイは悠一に渡した。持つ持つってうるさかったからね。

さて、今から昼飯をかけてゲーセンでいっちょバトろうか。


**********

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ