前世の記憶(TOA)

□第一章〜旅の始まり〜
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「ち…っ始末が遅れたか」

ジ「まさか寝室の窓から潜り込んで来るとは思いませんでした。ルーク早く立ちなさい。」

ル「あ、ああ」

ジェイドに言われれば立ち上がり村人に剣を構えるルーク。前世の記憶があるとはいえ、久しぶりの戦闘にルークの手は震えていた。

ジェイドはちらりとそれを見ては溜め息をつき、日々ルークの剣と一緒に作り上げたであろう槍を手の中から出した。

「な…っ手の中から…」

ジ「これぐらいで驚かれては困りますよ。氷の刃よ降り注げ!アイシクルレイン!」

「譜術…っ!?うわあぁっ!」

ジ「行きますよ、ルーク」

ル「行くってどこに…!?」

ジェイドの手慣れたような譜術によって村人はやられ、ジェイドは剣を構えるルークの手を取り、寝室の窓から外へと出た。混乱するルークに、ジェイドは何も答えずただ走るも、すぐ止まることとなる。

「やっぱり簡単にはいかないか」

「兄ジェイドは譜術を使う!気を付けろ!」

「こやつらを村から出してはならぬ!村の始末は我らの始末じゃ!」

村の入り口一歩手前では、村の村長を前にし、村人の男達がルークとジェイドを逃がすまいと道を封鎖していた。後ろからつけていたのか、ルークとジェイドの後から来た男はジェイドが譜術を使える事を伝え、その集団と合流した。

ジ「ルーク、時間を稼ぎなさい。やれますね?」

ル「やってみせる!」

「ジェイドを狙えー!」

ル「やらせねーよ!」

ジ「旋律の戒めよ。」

「ガキの癖して弟ルークもまるで戦い慣れてるみたいだ!」

「結局どっちも化け物さ!怯むな!」

ジ「死霊使いの名の下に具現せよ!」

ル「まだかよ、ジェイド!」

多勢に一人で挑むルーク。なりふり構ってられない状況のために、寝室で村人に剣を向けた時のような手の震えはない。だが、所詮は子供。力負けをしてしまうためにぶつかり合うことができず、攻撃を避けては攻撃と効率が悪い。

あちこちから攻撃が来るのだ。避ける方が確実に多い。さすがに相手に仕切れなくなった頃、村人一人がジェイドに切り掛かる。

「死ねぇえぇぇ!」

ル「ジェイド!」

ジ「ミスティック・ケージ!力というものを思い知りなさい!」

危機一髪。大きな譜術により、ルークとジェイドを残して大勢の村人は死に絶えた。

ル「すげー…」

ジ「ルーク、助かりました」

ル「いや、結局ジェイドに助けられたし…」

ジ「貴方がいたからできたんですよ。小さい身体ではきつかったでしょう。」

ル「必死だったからよくわかんねーや」

ジ「まぁ無事ならなりよりです。どうせなら村ごと消しましょうか。」

ル「な…っ村には女子供が…!」

ジ「だからですよ。私達のことを軍に知られるわけにはいかないのです。普通の子供として知られるには村ごと無くすのが効率的でしょう。」

ル「どういうことだ…?」

ジ「これからの旅のために軍を利用するのですよ。さぁ、行きますよ。無数の流星よ、彼の地より来たれ!メテオスォーム!」

ル「お、おい!」

あまりに早過ぎて止めるタイミングを見失ったルーク。取り合えず止めようとするも村はあっという間に跡形もなく消えた。ルークはそれを呆然と見つめることしかできず、何故ここまでとジェイドを見つめる。

ジ「ルーク、貴方は生きる事だけを考えなさい。ここからは演技次第ですよ。」

ル「うん…。ジェイド、俺…。」

ジ「演技に必要な涙でもありますからね。泣いても結構ですよ。」

ル「ぐ…ぞ…っなんで…っなんで…!」

ジェイドの肩を借りて泣くルーク。兄弟として弟を慰める兄として見ればいいものだが、この現状をもたらしたのは兄なのだ。

ルークは何が悲しいのかさえもわからない。もしかしたら生きていることが嬉しいのかもしれない。

訳がわからなくなったルークはただ泣くことしかできなかった。自分を守ってくれるジェイドをルークは責められない。

ジェイドはそんなルークを愛しげに見つめる。愛して愛してやまないかのように。だが、その内こちらの現状を見に来るだろう軍人に見られるわけにはいかない。

だからそれは一瞬で、演技のためにルークをしっかりと抱き締めては、頭を撫で、ただ無表情でいる。子供がショックで感情を無くすことの例がある。それをジェイドは実行しているのだ。

嘘でもジェイドは泣き言の真似をしたいとは思わない。それはジェイドらしい判断と演技と言えるだろう。
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