前世の記憶(TOA)

□第一章〜旅の始まり〜
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ジ「さて、まずい事になりましたねぇ」

ル「人を殺したからか?」

ジ「えぇ、そうです。軍人として命令の上でならともかく、相手は民間人で、私達は子供ですからねぇ」

ル「ど、どうするんだ?ジェイド」

ジ「一か八かに賭けてみましょうか」

ル「賭けるって?」

ジ「幸い、私が譜術を使えることを村人たちは知りません。それを利用しましょう。」

ル「?」

よくわからないままにジェイドが村に向かって歩き始めたので、ルークは首を傾げつつも着いていく。問い詰めないのはジェイドを信用しているから。

ただ、帰りついでにジェイドの譜術によって死に絶えた村人をルークは苦し気に振り返って見た。前世で人の命をよく知るルークにとっても、人の死は見慣れるものじゃない。

言ってしまえば前世ルークは7歳で人を殺し、7歳でこの世界のために命を捨てた。殺すにしても、死ぬにしても、早すぎたのだ。全て。

それでもルークは生きるためなら人を殺せるだろう。それはあの時仲間だったジェイドが兄弟としているから。

前世で生きたいと言う気持ちを知れたから。経験が浅いようで濃い、短い人生だった前世はルークにとっては大きなもの。

しかし前世でも今でも、子供は子供。結局は子供でありながら大人のジェイドに着いていくしかない。

戦闘の知恵や生きることの大切さなどを前世で身に付けていたとしても、ルークより遥か長く生き、子供の頃から天才だったジェイドには到底及ばない。それをルークは知っている。だから今の親や村人から非難されようとルークはジェイドと常にいた。

平和の中で生きていくことを望んだ前世。しかし、現実の今それは報われていない。前世の記憶を持つがために。

ジェイドも苦しんでいるのではないかとルークはたまに思うのだ。だから自分の望みよりもジェイドを選んだ。

ルーク自身後悔などはしていない。今の兄として、前世の仲間として自分を守ろうと必死になってくれているジェイドが見ていてわかる。それがルークにとっては嬉しいのだ。

同時に、前世生きて戻るという約束を果たせなかったことが辛い。ジェイドは前世、自分がいなくなってからどうしたのかとルークはたまに思うのだ。

何か思うことがあるから、顔には出さずここまで必死にやってくれる。人の気持ちに敏感なルークにはそう思えた。でも聞けないのは、自惚れだった時が怖いからだろう。

ジ「…ルー…ク…!…ルーク!」

ル「あ…ごめん。ぼーっとしてた」

ジ「体調でも悪いのなら言ってください。それとも稽古中怪我でも?」

ル「いや、なんでもない」

ジ「そうですか…。無理はしないように」

ル「うん」

もうレプリカではなく、人間として生まれたというのに、ジェイドの心配は付き物だ。だからこそ余計にルークは自惚れてしまう。その優しさに。

ジ「無理をしないよう言っときながら何ですが、ルーク、今まで通りを保ってください。それと私から離れないようにお願いします。」

ル「生まれ変わって今までジェイドから離れた事一度もないだろ?」

ジ「一度ありましたよ。その隙に村の子供達にいじめられていたではないですか。」

ル「あー…あれか」

たった一度。稽古のない日に、ジェイドが本に夢中で構ってくれず、拗ねてジェイドから離れた日があった。

今から一年前の話だ。ジェイド6歳、ルークが4歳の時。ルークはジェイドから離れ適当に歩いていると、自分より大きな子供達が遊んでるのが見えた。前世の記憶を持っていようと結局は7歳までの記憶。

まだまだ子供なルークは入れてもらおうと駆けていった。普段ジェイドから言われている村人に近づくなという警告を忘れて。

ル『なぁ、入れてくれよ!何の遊びしてんだ?』

『あ、こいつ、あのおかしな兄弟の弟だ!』

『お前なんか入れてやるわけないだろ!』

それからは散々だった。子供達は新しい遊びでも思い付いたかのようにルークを嫌って、泥団子を投げ付けたり、縄跳びの縄で叩きつけたりやりたい放題だ。

ルークは抵抗しようにもできなかった。相手は自分と同じ子供。誤って殺してしまったら…?

前世、人の死ぬ場面を何度も見たルークにとって、抵抗することは恐ろしく怖いこと。だからこれしきのことでは死なないから大丈夫だと、我慢していたのだ。だが、それでは納まらなかった。

『みんな退けよ!俺が殺す!母ちゃんも父ちゃんも、こんな奴いらないって言ってたしな!』

ル『……っ!』

一人のガキ大将とも言える子供が鉄パイプを持ち出したのだ。これで殴られれば一溜まりもない。だが、それよりもルークが目を見開いたのは"いらない"という言葉だった。

前世レプリカだったルークは自身がレプリカだと知って、いらない存在であると何度も自分を責めたのだ。自分(レプリカ)さえいなければアッシュはルークのままでいられたと。
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