前世の記憶(TOA)
□第一章〜旅の始まり〜
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そうやって、生まれた時のことを一度後悔しているルーク にとって、いらないと言う言葉は心苦しい。だから鉄パイプで殴られる瞬間、避ける気にもなれずただルークは目を潰った。
カキー…ン…
ジ『ルーク!大丈夫ですか?』
しかし鉄パイプが当たることはなかった。ルークが目を開けば、そこにはガキ大将と同じく鉄パイプを持ち、ルークを守るジェイドがいたのだ。
ル『ジェイ…ド』
ジ『すぐ終わらせます。だから大人しくしてなさい。』
ル『うん』
『チビのくせにちょーしこくな!』
『そうだそうだ!』
ジ『調子も漢字で言えないようでは、バカ丸出しですよ?さて、ルークをいじめた分しっかり倍返しを期待してくださいね』
嫌味たらしく言えば単純な子供は近くにあるものをとってジェイドに寄ってかかる。子供といえど、前世の記憶を持つ元軍人。ただ自分より大きいだけの素人、しかも子供に、数だけで負けるはずもない。ジェイドは大人気なく子供相手に(今現代ではジェイド自身も子供だが)ほぼ瀕死状態とした。
ル『や、やりすぎだろ…。別にここまでやられてねーぞ?』
ジ『さぁ?まぁ子供とはいえ、お仕置きは大切ですよ』
ル『お仕置き…』
この後、村人から今まで以上の非難を受けたが、ジェイドが子供達から最初にしてきた証拠と、正当防衛という完璧なる嫌味な説明で村人達を黙らせた。
ジ「あの時は本当に焦りましたよ」
ル「だってよ…」
ジ「えぇ、私が悪いです。ルークには私しかいないと言うのに、気付いてやれなかったのですから。」
ル「お、俺もジェイドの警告無視したし…!別にジェイドだけを責めたりは…」
ジ「おや、慰めてくださるのですか?」
ル「べ、別に…そういうわけじゃねーよ…」
ジ「そうですか。ですが、本当にあの時、常に近くにいた貴方がいない事に気付いて捜し回ったんですよ。」
ル「ごめん…」
ジ「いえ、謝るのは私です。本に熱中しすぎてルークの事を放って置いたのですから」
ル「でも今はそんなことないよな」
ジ「反省しましたからねぇ…。一度失敗すれば二度はありません。」
ル「さすがジェイド」
ジ「おやおや、褒めても何もでませんよ?」
ル「わかってるよ」
ジ「冗談です。これを差し上げます。」
ル「え?」
ジェイドは手の中から剣を出す。その剣は当たり前のようにルークへと渡され、ルークはいきなりの事に戸惑うばかり。
ジ「貴方が寝ている間、密かに作っていたんです。この間出来たばかりで、いつ渡そうかと渡せずにいたんですよ。」
ル「つ、作ったって…ジェイドが!?」
ジ「えぇ、そうですよ?」
ル「ジェイドが武器を作れたなら、前世でも購入する必要なかったんじゃねーか?」
ジ「何も医師の免許のように、最初から持っていたわけではありません。話は長くなりますが、聞きますか?」
ル「うん、ジェイドがいいなら…」
ジ「いいですよ。鍛冶の資格を取ったのはルークが消えてからです。貴方が前世死んだ後、私は生きる希望というものが本当の意味でなくなりました。自殺してもよかったのですが、それではルークの守った世界を無駄にするようで無理だったんです。今思えば私は、ルークの守った世界を大切にしたかったんでしょうね。」
ル「ジェイド…」
珍しく感情のままに話すジェイドにルークが表情を暗くする。それに気付きながらもジェイドは話を続けた。
ジ「私はせめて少しの希望が欲しくて軍をやめ、色んな事に挑戦しました。鍛冶はその一つなんです。」
ル「へぇ…他には?」
ジ「楽器に挑戦したりもしました。いつの間にかマルクトピアノコンクールや打楽器演奏コンテストなどすべての楽器で優勝してしまい、それ以上競うものもなく、やめましたが。」
ル「すっげぇ!ジェイドってただの天才じゃないから羨ましいよな!他には?他には?」
ジェイドの挑戦したものに興味が湧いたルークに暗い雰囲気は既にない。そんな様子に呆れつつも、いつもの元気なルークに、ジェイドは嫌味ったらしい笑顔で答える。
ジ「そうですねぇ…書道も全国優勝でしたよ。後狙撃にも挑戦しましたね。おかげで遠くを見る癖ができたりしましたが。」
ル「できなかったことはないのかよ?」
ジ「もちろん、ありましたよ」
ル「えっ!?」
ジェイドができないことがあるのかとでも言うようにルークは目を見開ける。が、それはすぐ閉じられることになる。
ジ「犯罪はどうしてもできませんでした」
ル「いや、できるとかできないとかの問題じゃないような…」
まさかの犯罪。ジェイドならバレないように一つ二つしてそうだが、そういう問題ではない。
ジ「殺人は貴方が嫌がると思い考え直したんですよ?なので強盗くらいならと思って計画的しようと考えたところ一躍有名になったものですから、お金に困ってないばかりか、顔を知られてる可能性があると厄介でしたので、できなかったんです。」
ル「最初からしようとすんなっ!」
ジ「あまりに刺激がなかったもので…。」
ル「はぁ…」
ジェイドの性格には呆れたものだとルークは思う。そうやって話していればようやく森の出入口へと着く。