前世の記憶(TOA)
□第一章〜旅の始まり〜
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ル「やあぁっ!」
ジ「踏み込みが甘いですよ!ルーク!」
ル「うわ…っ」
ジ「今のは躱すところです!貴方は前世のように青年の身体ではないんですよ!今のように剣同士でぶつかれば力負けします!」
薄暗い森の中、二人の兄弟、ジェイドとルークは剣術を練習していた。もちろん教え役はジェイドである。
前世から剣術が趣味であったルークは、ジェイドの教えに歯向かうことなく、ただただ言い付けを守って覚えていく。その素直さに、教えるジェイドも叱ってばかりだが、ときどき優しい笑みを浮かべていた。
ジ「ここらで休憩としますか」
そう言って槍を手の中へと入れるジェイド。ルークはそれを見て剣をしまい、首を傾げる。
ル「譜術は?」
ジ「無理は禁物ですし、譜術は私の得意分野です。ルークの手を借りる必要はないでしょう。どちらかと言うと貴方は前衛の方が向いていますし、譜術は覚えるだけ時間の無駄です。なので前衛に行っていただいた方が助かります。」
ル「それもそうだよな」
ジ「おや、文句を言うと思ってましたが、聞き分けがいいですね。まぁただ、貴方が危ない時には私も前衛をしますけどね。」
ル「わ、悪い…」
ジ「何を謝るのです?」
ル「いや、俺、ジェイドに頼りっぱなしだからさ…」
ジ「何を今更…。ルークと私は生きた年が全く違います。当たり前でしょう。」
ル「でも…」
ジ「私だって、ルークに教わったものもあるのですよ?」
ル「え?俺何も教えてなんか…」
ジ「人としての感情です。」
ル「感情…」
ジ「貴方は前世レプリカでありながら、私に感情というものを教えてくれました。私は人の気持ちに疎いのです。それは自分に気持ちがないからとも言えるでしょう。でも、今は違います。」
ル「じ、ジェイド…?」
ジェイドの手がルークの頬を触る。戸惑うようにジェイドを見るルークを、ジェイドは優しい瞳で見つめる。まるで愛しくて仕方がないと言うように。
ジ「今は…喜び、愛しさ、悲しみ、寂しさ、苦しさ、多くの感情を理解できます。全てルークのおかげですよ。」
ル「か、顔近いぜ?」
ジェイドの言葉よりも顔の近さに顔を真っ赤にさせるルークに、ジェイドはひそかに笑ってさらに顔を近付ける。
ジ「何の事ですか?」
ル「わ、わざとだろ!」
ジ「いやぁ、わかりませんねぇ」
ル「お、おいっ」
段々と追い詰めるようにジェイドから顔を近付けていけば、覚悟を決めるようにルークは目を潰る。このまま唇が触れそうな気配を感じた瞬間、それはすぐどこからか湧き出るような殺意によって消える。
ジ「誰ですか!ルーク、後ろに隠れなさい!」
ル「な、なんだ…!?」
ルークと向き合っていた体勢は、ジェイドがルークに背を向けることで変わる。ルークはジェイドの言うとおりにジェイドの背へと隠れた。誰かがいるのはルークでもわかる。
「仲の良い兄弟なこった。」
ジ「貴方は…」
ル「村の人…?」
現れたのは村人。ジェイドは険しい表情、ルークはきょとんとした表情で見た。
「覚えてもらっちゃいねーか。お前ら、村を無くす気だろ?」
ル「そんなわけ…!」
言い返そうとするルークをジェイドが止める。そうすればルークはぐっと我慢してジェイドを見た。
ジ「また物騒な事を言いますねぇ。村を無くすとは子供の私達には出来かねませんよ」
「はっどうだか。毎日隠れて剣の練習なんかしてるのはわかってんだぜ?」
ジ「おや、バレていましたか」
「知ってたような口振りだな」
ジ「いえ、知りませんでしたよ。ですがその様子だと村全体にそのことは知られているみたいですね。」
「いや、知ってるのは俺だけだ」
ジ「そうですか。それを聞いて安心しました。」
「安心しただぁ?余裕こいて愛想笑いするのもいい加減にしろよ?」
ル「じ、ジェイド…どうすんだ?」
ジ「ルークは隠れていればいいですよ。」
「ガキが…無視してんじゃ…」
ジ「では、お言葉に甘えて愛想笑いもやめましょう。ルーク以外に笑いかける必要はないですからね。」
「は…っいつもの無表情に戻りやがったか」
ジ「雷雲よ、我が刃となりて敵を貫け!サンダーブレード!」
「な…っ譜術…!?ぎゃああっ」
人の話に聞く耳を持たないとでも言うように譜術を発動させるジェイド。村人は一瞬にして雷の剣によって貫かれた。