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□悟飯の家出?
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「悟飯ちゃん、今日も勉強だべ」
「え?今日もですか?もう二週間ほとんど勉強ばかりですよ?」
「なぁに言ってるだ!修業ばっかでろくに勉強してねぇせいで、勉強が遅れがちなんだ。これくらい普通に決まってる!これが今日の勉強だよ」
どっさりと何十冊ものドリルや教科書を悟飯の机へ置くチチ。いつも以上の量に悟飯は目を見開いた。
「こ、こんなに…?この頃量が多いよ…、お母さん」
「文句言うでねぇ!悟飯ちゃんは大きくなったら、学者さんになる夢があるだぞ?これくらいは我慢しなきゃ学者なんて夢のまた夢だ!」
「………学者さん…」
「じゃ、オラはまだ家事が残ってるからな。頑張るだぞ?」
「待ってお母さん!」
「どうしただ?」
「これ終わったら遊びに行っても…」
「なぁに甘ったれてるだ!まだまだこれだけじゃねぇ…、これ以上悟飯ちゃんを不良にはできないだかんな!いっぱい勉強して、遊ぶことなんて忘れるだ」
それだけ言うとチチは部屋を出ていった。悟飯はチチの言葉に沈んだ表情になり、机にある宿題の山を見る。
勉強は嫌いじゃないし、学者にもなりたい。その気持ちは確かに悟飯の中にはある。
だが、あまりにも自由な時間がなくて、悟飯には勉強が窮屈なものに思えてきたのだ。
それでも、母であるチチの期待に応えねばと耐えてきた悟飯。
それももう限界に近い。悟飯は勉強が嫌いになってしまいそうで怖いのだ。それこそがチチの期待を裏切るもっともな行為であるために。
悟飯は何も持つことなく、窓から飛び去る。それがチチの小さな期待を裏切ったことになったとしても、勉強を嫌いになるよりかはいいと判断した結果だ。
悟飯は心の中でチチに何度も謝罪しながら、目的もなく闇雲に飛んでいたが、自分に近づくある気を感じて多少家から離れた場所で止まった。
「ピッコロさん…?」
「悟飯、何をしている」
「えっと…僕は…っ……」
突如現れたピッコロに悟飯は戸惑うしかない。それでも何をしているのかなんて、素直に話せば終わりなのだが、ピッコロにとってはどうでもいい理由だろう。
そう思うと、悟飯は中々話すことができなかった。自分に厳しくしてきた師匠だから、甘ったれるなと言って終わりに決まっている。
別に嫌ではないし、それでもかまわない。優しい言葉が欲しいわけではないのだから…。
だけどそれを思うと、どうしてもチチと重なって見えてしまう。
それが苦しくてたまらないのだ。チチは怒ってばかりで、勉強が遅れてるだとか、勉強頑張るだとか、勉強しない子は不良だとか、同じことを言うだけ。
いくら悟飯が期待に応えようと、チチは喜びさえしない。悟飯は何を頑張って、何のために勉強し、何がチチを喜ばすのかわからなくなってしまった。
ついには、自分は生まれるべきではなかったんじゃないかとも思ってしまう…。
今悟空がいないことで余計思うのだ。自分に嫌気が差したせいで帰らないんじゃないかと…。
これでピッコロにも突き放されれば、悟飯に居場所はない。
数分間もごもごとしていた悟飯が、ついに俯いて何も言わなくなると、ピッコロは何を思ったのか、悟飯をマントの中へと隠すようにして抱くのだった。
「ピッコロ、さん…?」
「相変わらずの泣き虫だな。直ったと思ったんだが、どうやら違うようだ」
「え…?あ…僕…っ」
深く考えすぎていつの間にか泣いてしまっていた悟飯。ピッコロに言われて気付けば、涙を止めようと必死に拭くが、ピッコロにすぐ止められる。
「何も、そこまで頑張らなくていいだろう。何故子供は親の言う通りにせねばいかんのだ」
「見て、たん…ですか?」
「ふん…、休憩がてらにたまたま通りかかったんでな」
「えへへ…僕、お母さんに…笑って、ほしかったんです…。僕は…いらない子、ですか?」
「毎日母親の言う通りに勉強をして、自分のことよりも母親のためにやるお前を誰がいらないと言うんだ。それに俺はたまたま通りかかったとはいえ、人の家を覗く趣味はない。悟飯がいたからついでに見ただけだ。俺にとってお前は必要な存在だ…いらないという奴がいるなら連れてこい。このピッコロ大魔王直々に殺してやる」
「ピッコロ…さ、ん…ピッコ…ロ…さ…うわぁあぁぁんっ」
悟飯にはわかった。ピッコロはわざわざ自ら出向いて自分の様子を見に毎日来てくれていたことが…。
ピッコロの修業場所からパオズ山は大分と距離があり、通りかかる場所ではない。
悟飯はピッコロの優しさを改めて感じ取り、ピッコロの服にしがみついては泣きじゃくるのだった。
自分を見守ってくれた人がいた。自分をわかってくれる人がいた。自分を必要としてくれる人がいた。
悟飯にとってこれ以上に喜ばしいことはない。ピッコロは泣きじゃくる悟飯を抱えながら、誰も来ることはない荒野へと向かうのだった。