短篇

□喧嘩上等。
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喧嘩上等。






一護の目の前に、前置き無しに人が現れた。

「…たく…なーにしてんだ?」

それは女。
黒にグレーのラインが入ったジャージを着た堂堂とした女だ。

「いーちごちゃーん?」

女はニヤリと不適に口を歪ませ、一護に光り輝く眼孔を見せた。

「な…なあ一護…このお姉さんは…どちら様?」

啓吾が隣にいる水色を通り越し、女に名を呼ばれた本人におそるおそる尋ねる。が、そこには既にあの目立つオレンジは見あたらず、何処だと探せば、先程歩いて来た道を全速力で駆ける彼の姿が目に映り込んだ。
まさに脱兎の如く。

「チッ…逃げ足が早い奴が…」
「え?」

女は一つ舌打ちすると、一瞬で啓吾と水色の間を抜けた。それには一護が逃げ出した事より驚き、ただ呆然と“青緑色”の光りを放つ女を見送った。











「はっはっはっはっ…!」

一護の足の速さは陸上部顔負けな程だ。それは死神として鍛えたものだから当たり前だが、追い付こうと思うならオリンピックに出られる程の速さが(多分)要る。
が、

「逃げんなよ一護ちゃ〜ん♪」
「…ッ!?」

女はそんな速さなど物ともせず、一護の首に腕を回した。

「さーさーさー!仕事行こうな一護!メイド服着ような!」
「止めろバカ!放せ変態!!てかどうやって追い付いて…」
「普通に完現術使って」
「その手があったか!!」

息が触れ合うような至近距離で一護と女は楽しく会話し、女の言葉に掌を打った一護は、自然な流れで女に姫だっこされていた。

「何してんだお前!?」
「…デカイ声出すなよ…。たかがお姫様だっこの一つや二つ…」
「二つもねえよ!あと『たかが』でもねえよ!!いいから降ろせよ!!」
「はぁ?降ろせぇ?」
「…………っ!!」

一護の言葉に女は明白に眉を寄せ、不機嫌さを顔に浮かばせる。

「へー!へー!一護はそんな口をきくんだ!へー!一護が…へぇ…」
「お願いします。俺にも僅かながらプライドと云う物がありますので、抱き抱えるのだけは勘弁して下さい」

先輩。
と、一護は最後に女をそう呼んだ。

「仕方無いなー。降ろしてあげますよー」

後輩くん。
と、女は一護を降ろしながら言う。

彼女はなんでも屋『うなぎ屋』でアルバイトする一護の一年先輩にして、完現術歴三年先輩にあたる人物なのだ。














「さてと、じゃあ一護は三丁目にある村山さん家の庭掃除お願い」
「たく…、…育美さん…絶対押しつけてんだろ…」

一護はぶつぶつと悪態を吐きながら女から渡されたメモを受け取った。

「でも育美さんは育美さんで、結構な量の仕事こなしてるんだよ?」
「ふーん…」
「あ、ついでにこっちもよろしく」
「ん?何だよ?『駅前に萌え萌えメイド喫茶オープン☆人員代募集!』って、さっきのメイド服うんたらはこれの事かよ!?」
「ねえお願い。着て一護!」
「誰が着るか!!」

チラシとメモを丸め、地面へ投げ捨てた一護は肩で息をしながらツッコミを入れた。それに女は少し残念がるとすぐに気を取り直し、今度は『何でも屋のうなぎ屋!!美男美女勢揃い!!』と書かれたチラシを取り出す。

「じゃあこの広告の美女になってよ」
「なれるか!!」

今度は大きく腕を振ってツッコんだ一護のを女はしゃがんで避け、その向こう側にちょうど人が通りかかった。少しおかしなポーズを取り大声を出す一護を、その人は怪しい者でも見るかのような目で眺め、そのまま速度を落とす事無く足早に去って行ったらしい。
黒崎一護は9999のダメージを受けた。






 あきた\(^q^)/








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