青春ロード。
□第六に スタートライン
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ワーワーキャーキャーと至る所から歓喜に染まった悲鳴が上がり、それに振り回された長月裏瀬はほとほと参ってしまっていた。
凄く疲れた。
まだ此処へ来て、一時間しか経っていないのに、だ。
憂鬱を深いため息で吐き、気を紛らわせる様に自前のコーラを彼女は口に含む。
空座第一高校は本日遠足であり、某遊園地へと来ていた。
裏瀬は何でか全く判らないが、何故だか学校のマドンナである井上織姫を含む、学校屈指の美少女達と共に行動している。
解せぬ。
凄く、居た堪れない。
どうしてこうなった?
俺何かしたっけ?
周りから向けられる「何であの中にあんな奴が混じっているんだ?」という視線に耐えながら、ぐるぐると思考し状況を整理する。
そもそも何がいけなかったのだろうか?
一緒に行動しようと織姫達に誘われた時、別段断る理由がなかったため了承したが、今思えば、何故普段から全然関わりのない、ほぼ初対面の彼女らと付き合うことにしたのか?
謎す。
クラスが同じになったこともないし、一言も言葉を交わしたこともない。
精精廊下や学校行事の際にすれ違った程度である。
何故そんな存在に声を掛けてきたのだ。
解せぬ。
そこからがもう過ちだ。
諦めよう。
裏瀬は乗り物に滅法弱く、すぐに酔ってしまう。
乗っている間は平気なのだが、降りてからはてんで駄目で、ふらふらと足元が覚束無く、口許を押さえて今にも吐くのではと心配になるくらいに青ざめてしまうのだ。
絶叫系は大好きなのだが、これはばっかりはどうしようも無い。
好き好んでこんな体質な訳では無いのだから。
仕方無く、何故だか初対面にも関わらず随分と心配してくれた織姫達に悪いとは思いつつ、裏瀬の都合で彼女達は少し休憩することにした。
丁度昼時だったため、そのまま昼食を取ることにする。
「あっ、そう言えばさ!長月さんってさ!」
女子高生らしい話題で盛り上がる彼女達と一人分の距離を置き、ホットドッグをもぐもくしていた裏瀬へ、千鶴が唐突に話を振ってきた。
裏瀬は一・二度瞬きすると、口の中のを飲み込み、一口コーラを飲んでから、どうしたのかと首を傾げる。
「長月さんって黒崎と何か噂あったけど、あれってガチなの?」
「……へ?」
「ちょっ千鶴!行き成り過ぎるよ!!長月さん困ってるでしょ!!」
「えー?そう?みんなも気になってンでしょ?特に姫は?」
「へっ!?な・なななななな何のことかな!?」
「あーんっ!!キョドってる姫可愛すぎー!!」
「その汚れた手で織姫に触るな!!」
「ぐふぉっ!!」
「………」
これはどうしたらよいか?目を泳がせながら、コントのように取っ組み合いし出したたつきと千鶴を交互に眺め、裏瀬は小さくため息を吐く。
取り敢えず、目の前で真っ赤になっている井上さんは可愛い。
まだ半分も減っていないコーラがもう要らなくなって、二人が落ち着くのを手の内で弄びながら待った裏瀬は、漸く座り直した彼女達に苦笑いを贈ってから口を開いた。
「デマ…ですよ。そんな訳無いです。黒崎さんとどうこうなる未来なんか、喩え隕石が落ちてこようと有り得ない。うん、絶対に無い」
「……言い切った」
「絶対に無いんだ…」
「逆に可哀想になってくるな…」
これもこれでどうなんだ、と遠い目する面々。
しかし、すぐに気を取り直し、じゃあと別の質問をした。
「デートしてたってのは?実際にアンタら二人が一緒に手を繋いでレストランに居たって目撃情報あるけどさ!?」
それに織姫とたつきが小さく反応した。
その目撃情報は、彼女ら二人が実際に見たものだ。
嘘を吐いても言い逃れは出来ない。
裏瀬はまた首を傾げると、そんなことがあっただろうかと記憶を遡った。
そして、ああ、あれか…、と言葉を漏らす。
つまりそれはデマで無く、事実だということだ。
無意識に彼女達の眉が寄った。
だが、次に裏瀬の溢した言葉に目を瞬くこととなった。
「あの時は、黒崎さんの間接ずらして遊んでたん、かな?それに男の武骨な手って何か良いですよね?」
What?
予想外過ぎるそれに、誰もが言葉を口に出来なかった。
その間に裏瀬は悠悠とコーラを飲み、自分のお世辞にも整ったとは言えない爪で遊び始める。
ベリベリと皮膚を剥がす様は、自傷癖でもあるのかと疑いたくものであったが、後に訊いたことによると、ただ一部剥がれてたり変色しているのが気になるだけらしい。
変な子だと、改めて認識させられる。
ようやっと彼女らが回復したのは二分後。
皆は、この子と一護が引っ付く?無い無い、と結論付け、質問タイムを終えることとした。
その展開に、裏瀬はやっと一つの答えに辿り着く。
成る程、と小さな笑みを浮かべた。
彼女達は、きっと自分が一護と引っ付くのを回避したかったのだ。
だからこうして誘い、確認を取った。
きっと織姫辺りが彼を狙っているのだろう。
そんな心配をせずとも、絶対にそんなことは起こり得ぬのに。
可笑しな思い違いをする人達だと、心内だけで彼女は嘲笑った。