青春ロード。
□第二に
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裏瀬は朝から何とも言え無い顔をしていた。
いや本当に何なのだこいつは?
チャイムが鳴る10分前に教室に入って来た水色は、誰とも挨拶を交わす事無く真っ直ぐ裏瀬の前まで来た。
するとニッコリと、当たり前の様に笑顔を作り「おはよう」と、言ったのだ。
戸惑いながらも裏瀬は読んでいた漫画雑誌『ジャンプ』から顔を起こし、それに返事をした。
それからもまだ来ていない一護の席に腰を落ち着かせた水色は、「それ今週の?もしかして昨日はそれ買う為に歩いて帰ったの?」などと質問してくる。
一体何なのだ?
こいつは自分に何の用がある?
裏瀬は困惑しつつ水色が自分を解放する気が無いのだと理解して、雑誌を閉じた。
どうせ昨日の内に眼を通してある物だ、邪魔されたなどと彼を邪険はしない。
「長月さんって何時も一人だけど、もしかして友達居ないの?」
「うわぁストレートですね…。居ない訳ではありませんよ。ただ少ないだけで…」
「へー…。じゃあ彼氏が居た事は?」
「無いです。誰がこんなブスでキモイ奴と付き合うんですか?自分を好きになる様な奴の思考回路を疑うよ。先ずもって病院にぶち込みます」
本当に嫌だと顔を裏瀬はしかめ、水色はそれに乾いた笑いを漏らした。
「じゃあさ、長月さん。もし良かったら今日のお昼一緒にしない?」
「………………は…?」
何が「じゃあ」なのか?
てかそもそも今自分は何と言われた?
裏瀬は水色を訝しげに見た。
が、しかし水色はそれを気にする様子は無く、ニコニコと笑顔で居る。
これは何か企んで居ると裏瀬は察した。
裏瀬は結構察しが良いのだ。
「…部活に行くから…難しいですね…」
「部活か…。確か長月さんってイラスト部だよね?」
どうしてこいつはそこまで知っているんだよ!?
裏瀬はまさか水色がそこまで自分を認識していたとは思って居らず、それに両目を見開いた。
自分などその他大勢に過ぎないちっぽけな存在。
年上限定の面食いな水色の視界に入る様な人間で無いと思っていたのだ。
「……と言うか…長月さんってさ…」
「?」
「目、全然合わせてくれ無いよね?」
「……それは…」
裏瀬はこれだけ水色と話して居るが、一度も彼の目を見て居なかった。
人と話す時は先ず目を見て話そうと、小学校で教わる事が、裏瀬は出来無い。
否、これは言い過ぎな為訂正するが、見るのが苦手なのだ。
人の目で無く、人その物が。
人が怖いのだ。
恐怖症とまでは行かないが、苦手な範疇にある。
いっそ引き隠ってしまいたいと思って居るが、それは親に迷惑が掛かる為出来無い。
「…怖いから…」
「…え?ごめんよく聞こえなかった」
裏瀬が何を言ったのか分からなかった水色は、もう一度、今度は詳しく話してもらおうとした。
が、それは叶わず、彼の後頭部を叩く手が邪魔した。
「邪魔だ水色。あと、おはよう」
それは一護だった。
「おはよう一護」
眼を伏せて「仕方ないなー」と一護の席から言って立ち上がった水色は、裏瀬の机の前に回り、頬杖をつく。
裏瀬は一護が来たにも関わらず自分を解放しない水色に、一体どう云うつもりかと視線で訴えた。
「あ、そう言えば長月さん。部活動は月から金で、土日は空いてるよね?」
「…そりゃ…まあ…空いてますけど…」
嫌な予感を覚えつつ、裏瀬は水色の問いに一つ頷く。
その様子を見て、一護は何時の間にこの二人が仲良くなったのかについて首を捻った。
昨日水色本人から聞いた話では、裏瀬の事を一方的に自分が知っているだけだと言っていたはずだ。
にも関わらず、珍しく先に学校に行くとのメールを貰ったかと思えば、仲良くなっていた。
裏瀬が敬語を使って僅かに警戒しているが、一護から見れば水色が楽しそうにして居る為、十分仲良さげに映る。
「じゃあ土曜日空けといてよ」
「…………は?」
「遊びに行こうよ」
「ヤダ」
急展開過ぎてどうしたら良いか分からなくなった裏瀬は、口から咄嗟に出た拒絶の言葉に自分でビックリした。
それは水色も聞いていた一護も同じで、嫌に冷たく響いたそれに表情を固まらせる。
やってしまったと思っても、既に遅い。
言葉は一度口から放ってしまったらもう二度と戻らない。