覆面の騎士はそうさく中

□第一章 〜蒼鷹騎士団〜
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「右っすかね?足跡あるし」
「左だ。メイが血臭に反応している」
「…二手に別れた可能性もありますわよ?」

 星明かりも差さぬ暗く広大な山の中腹で、揃いの団服を着た男達が談義している。眼前には鬱蒼と繁った木々が立ち並び、男達の行く手を阻んでいた。

「俺が右に行くっすよ。お二人は左へどうぞ」

 まず、右手に一つ炎を浮かばせた青年がそう切りだした。

「何言ってるんですの。下っ端が勝手に決めないでちょうだい」

 が、淡い炎を周囲に纏わせた中性的な男は即否定する。

「下っ端が一人で行く気とはな…………若い」

 そして、松明を持つ体躯のいい男は、うっすら苦笑を浮かべた。


「浅はか過ぎますわね。いずれ力量をわきまえず、ボロボロにされるのが目に見えるようですわ」

「違いない。骨は拾ってやるからな。……拾える状態ならの話だが」

 ポンポンと息の合った掛け合いをする先輩騎士二名は、一方は皮肉、一方は慈愛という対照的な表情を青年に向ける。表情は違えど、内容的には青年の未熟を指摘するもの。青年は肩を落とし、恨めしげに二人を見つめた。

「………イジメ?それとも愛っすか?……分かりましたよ……どうすんですか?」

「こういう時はな……メイ、この近くにアイツの匂いはするか?」

 体躯のいい男が、自らの肩に乗る丸っこい塊を撫でながら話す。

 体長30cmほどで長い尻尾に長方形の耳、ヒクヒクと動く鼻。揃えた両手をちょこんと浮かばせる姿も愛らしい、どうやら“メイ”という名のチンチラに似た小動物のようだ。

 メイは肩から飛び降り、周囲の匂いを嗅ぎながら左に3mほど離れた樹へ跳ねて行き、黄色い布をくわえて戻って来た。
 体躯のいい男はメイを抱き上げる。


「左に決まりだな。ヴァンが道標を残してる。布一枚ってことは、右は囮だな」

「あぁ…その手があったんすね……あの人も一人で行くなよなぁ………」

 またも、青年は溜め息を吐いた。

「何をぶつくさと。貴方が間抜けにもスッ転んでたからでしょうが」

「あれは化精が……っつーか俺を助けてから一緒に追えばいいだろうに、あの人見捨てて行くんだもんなぁ…」
 三度、しょんぼりボヤく青年の頭を体躯のいい男が撫でる。

「甘い。そんな間があったら化精も狩人達も逃げてしまうさ。ヴァンの判断で正解だ」

「それに、私達が近くにいましたからね。余程の抜けさくでもない限り、かすり傷一つ負いませんわ」
 中性的な男はホホホホと笑いながら青年の背をバンバン叩く。


「余程の抜けさく…」(俺の右足ちょっと切れてるの、まさかこの暗さで気づいたのか?)


「さっさと追うぞ、下っ端」「行きますわよ抜けさく」


――男達は駆け出した――            
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