覆面の騎士はそうさく中
□第一章 〜蒼鷹騎士団〜
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見渡す限り草が覆い茂る平原―
視界に広がる景色は晴れた空の碧と草の緑。時折吹く風が草を煽り、さわさわと音を立てながら、爽やかな緑の息吹を優しく運ぶ。
雲ひとつない空と清風に踊る草が作り出す長閑な風景は、果てない過去を追想させ、たとえいくら時が経とうと変わらぬ姿を空想させる不思議な存在感がある。
そんな、どこまでも穏やかな平原の一部に、黒と白がポツンと佇む。瞬きをすれば直ぐ碧緑に紛れ、見失いそうなほど頼りない黒白。
黒の正体は、黒き髪に黒き衣服を身に纏った男――その瞼は閉じられ、微動だにせず横たわる。両手は腹の上で組まれ、長い両足は力なく地面に投げ出されたまま、ひたすら風に衣服をはためかせるばかり。静かな寝息すら聞こえてこない。
力なく横たわる黒き男の傍らには、白く発光したものが座っている。
白きものは、小さく息を吐くと自らの両手を伸ばし、男の組まれた手を柔らかく包む。
そして、もう二度と開かない男の眼を見ながら、在りし日の記憶を辿り始めた―――
『じきに俺から離れられなくなるよ』
『………』
『たとえ俺の心臓が止まっても、キミは傍にいてくれるさ――』
「………面倒だな」
もう何度も思い返した黒き男との一場面に、忌々しげにポツリと呟く。
「生きていた時からお前は面倒くさい奴だったが………癪に障る」
そう言うと、片手は男の手に乗せたまま、男の傍らに添うように体を倒した。
白きものが瞼を閉じ、念じると――手指から順に光が消えてゆき、現れた四肢は男と共にザラザラとした岩に変化してゆく。
『キミは俺の―――』
「…本当にいつもお前は―――」
白き光が全て消え、口元に淡く笑みを浮かべたものの全身が変化すると、男の身と周囲を巻き込み大きな一枚岩が出来あがる。
黒と白が消え、新たに加わった一枚岩の鈍く輝る鈍色は、長閑な平原によく馴染み、微かな違和感もない。
やがて、一枚岩の周囲から水が溢れ出した。
歳月を経る度に水は勢いを増し、土を削り小さな湖を形成するほどに湧き続ける――まるで岩を護るかの様に。