けもの日記

□赤いマフラー
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冷たい外の空気が遮断され、暖房が入った暖かい室内。

ソファで編み棒を手に真剣な表情で編み物に励むミルは、少し離れて置かれたベッドで寝ている恋人に視線をやった。

すっかり寝てしまっているらしく、動かない。

普段こそ強引で手が付けられない宍神は、ああして たまに昼寝をする。

恐らく、仕事で疲れているのだろう。

その寝顔は鋭さがとれていて少し可愛くも見える為、まるでライオンのようだ、とミルは小さく笑った。

──そうだ。

ふと自分の手にしていた赤い毛糸を見て思い付いた悪戯を実行しようと、彼女は携帯を片手にベッドに近寄る。

寝ている今のうちしかできないだろう。

起こしてしまわないよう、慎重に切った毛糸の端を宍神の小指に括りつけ、反対側を自分に付けた。

運命の赤い糸。

起きている時に こんな悪戯をすれば、くだらない、と彼に呆れた目を向けられ一蹴されるはずだ。

記念に写メを撮ろうとして はたと気づき、宍神の寝顔と携帯を見比べた。

ぐっすり眠っている彼を起こしてしまうかもしれない。
それは、可哀想だ。

ミルは思い直し、目に焼き付けるだけにしようと携帯を下ろした。


「……撮りたいなら撮れ。今回で最後だ」


ふいに掛けられた低い声に、彼女は驚きのあまり携帯を取り落としそうになったが、落ちる前に慌てて掴んだ。

見ると、宍神が呆れ顔を向けている。

ライオンよろしく大きな欠伸を溢した彼に、ミルは申し訳なさそうに落ち込んだ。

「お、起こしちゃった? ごめんなさい」

返答代わりに、くしゃりと少し乱暴な手つきだが可愛がるように頭を撫でられた。

慣れている様子はなく、ぎこちなさもないそれが、ミルは どうしてか たまらなく好きだ。

自分以外には こうした事がないのを本能で無意識に感じているのだろう。

彼にとっての特別、という何処か満たされた感覚がある。


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