けもの日記
□好敵手
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緊張してしまうから、と あまり犬川の家に訪れた事はなかったが、今日のミルには目的があった。
知り合いから貰った犬用の玩具。
これを犬川の家で飼われている犬にプレゼントしようと計画していたのだ。
そんなミルに もちろん飼い犬もなついているのだが、犬川としては少し複雑だった。
飼い犬が彼女を独占してしまうので、いつもより余計に距離ができる。
ペットに嫉妬するなんて、と自嘲も恥ずかしさもあり言えずに、ミルと飼い犬が遊ぶ様を眺める事しか出来ない。
ただ、飼い犬が彼女の顔を舐めようとした時は別だった。
慌てて犬を抱き上げ、彼女から引き剥がす。
「だ、ダメだって! まだ俺もキスしてないんだよ!」
さすがに飼い犬に先を越されるのは頂けない、と必死に止める犬川を見上げ、ミルが徐に立ち上がった。
犬川の肩に掴まり、背伸びをして頬に口づける。
「……えっ」
嬉しいが、何故 急に棚から餅が降ってきたのか理解できずに狼狽える犬川から、飼い犬にミルは視線を移した。
飼い犬は抗議するように犬川の腕を加減して噛んでいる。
その頭を撫でてやりながら、ミルは小さな声で付け加えた。
「さっき犬川くんが居ない時に、この子に ほっぺを舐めてもらったから」
俯いた彼女の顔は髪で隠れてしまっていたが、耳が真っ赤になっている。
「ミルちゃん、俺……痛っ」
あまりの嬉しさに、好意を表そうとした犬川の腕を犬が強めに噛んだ為、阻止されてしまった。
解放されてミルの側に座り込む犬を恨めしそうに見る彼に、彼女が小さく笑う。
犬の頭を撫でてやりながら、ミルが犬川を見上げた。
「……この子、犬川くんに似てるから他の犬より可愛い」
*fin*
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2013.11.22