けもの日記
□トリック・オア・トリート
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他愛もない内容が流れるテレビを二人で並んで見るのは、もう何度目だろうか。
デートで毎回 出かけるのは疲れる、という猫気質な彼女の要望で、最近は こうして自宅で のんびりと過ごす事が多かった。
お昼ご飯も消化されつつある為、菓子を皿に出して二人の間に置いてある。
細長くて棒状の、知らない人はいないくらいに有名なものだ。
ミルが真ん中に置かれた菓子に手を伸ばし、口に運んだ瞬間──
「トリック・オア・トリート」
唐突に、屈託のない笑顔で犬川が 彼女に向き直った。
固まったまま、顔だけを菓子の皿に向けると、既に菓子はない。
はめられた……!
ミルは そう心の中で叫んだが、至って平静を装い、思考を巡らせた。
その様子を見ていた犬川が小さく笑い、彼女の唇に くわえられたままの菓子を口で やんわりと奪っていく。
それ自体が悪戯だった。
犬川が取った菓子を食べて直ぐ、ミルが勢いよく立ち上がったかと思うと全速力でリビングから逃げ出した。
「あっ、ミルちゃん!?」
一瞬 見えた顔は真っ赤だったのだが、少しやり過ぎてしまった、と犬川が慌てて彼女の後を追いかける。
洗面所の隅に、ミルは踞っていた。
「ミルちゃん?」
照れを通り越して怒っているのか、と彼女の頭を撫でながら不安気に覗き込んだ犬川。
その頬に、ふいに顔を上げたミルが口づけた。
「仕返し」
してやったり、と言った風に得意気に微笑む彼女が立ち上がると、今度は犬川が座り込んでしまった。
「ずるい……ミルちゃん、ずるい」
「犬川くんが最初にやった」
「う……そうだった、ごめんね」
真っ赤になっている犬川の頭を軽く撫で、彼の手をミルの手が促すように引く。
そうして連れて行かれた犬川は、やっぱり彼女が一枚上手なのだと学習した。
*Happy Halloween*
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2013.10.29