けもの日記

□服選び
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ペット用品の店には、フードや手入れをする道具など色々な商品が置かれている。

この店は、その中でも特に犬用の服に力を注いでいるらしい。

実家で飼っているペットのオヤツと遊び道具をカゴに入れ、ミルは ずらりと並んだ服の棚で足を止めた。

ハチやウサギなどの可愛らしい着ぐるみのものから、人間のような服まで色々な商品がある。

カゴを持って隣に立つ犬川を、ミルが見つめた。
犬用の服を見た事で、連想的に彼へ興味が湧いたらしい。

「……犬川君は、何処で服を買うの?」
「うーん……あんまり決まった店では買わないよ。適当にしてるかな。どうして?」
「……訊いてみただけ」

不意な質問を受け、不思議そうにしている犬川から服へ視線を移す。

ついさっきまで自分を見ていたかと思うと、直ぐに ふいっと別の方を向いてしまう。
猫のように、気紛れ そのものだ。

けれど、そんな彼女を気にした風もなく犬川が思い出したように声を上げた。

「あっ、でも、ミルちゃんと会う時の服は、悩んで買ってるよ」
「……そう」

悩んでいる時を思い出したのか、無駄に嬉しそうな笑顔の犬川から顔を背け、ミルは素っ気なく頷いて答える。

照れ隠しから自分の髪を弄る彼女に、犬川が質問を返した。

「ミルちゃんは、服どうしてるの?」
「……買ってる」
「う、うん」

選んでるなんて言わせるな、恥ずかしい、と言わんばかりの雰囲気を醸し出すミルに、彼は とりあえず頷く。

「そ、そう言えば、ミルちゃんはスカート好きじゃないの?」
「うん、あんまり好きじゃない。……どうして?」
「着てるのを一度も見た事ないから。ミルちゃんが着たら絶対 可愛いと思う」

一拍、間を置いてからミルの動きが停止した。
俯いたまま、微動だにしない。

ミルだけが周りから切り離されたかのように、明るい店内と明らかに雰囲気が違う。

何か気に障る事を言ってしまったのだろうか、と犬川が心配そうに彼女を覗き込んだ。

「……ミルちゃん?」

目が合ったミルは、耳まで真っ赤に染まっていた。

あまりに意外な反応に動けないでいた犬川に、彼女が背を向ける。

「……不意打ちは、ずるいと思う」

口から出たのは、あまりに素直でない言葉だった。
恥ずかしさに負けてしまい、嬉しいのに反応が出来ない。

今日のデートに着てきた服だって、考え過ぎて寝不足になるくらいに厳選したものだ。
もちろん、彼に少しでも可愛いと思ってもらう為に。

好意を率直に表現できる犬川が羨ましくもあり、彼に申し訳なくもある。

こうした反応をしてしまっても、いつもなら手を握ってくる犬川が何の反応もない事に不安を覚え、ミルが恐る恐る振り向いた。


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