けもの日記
□雨の日デート
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待ち合わせ時間の二分前に到着したミルは、少し浮かない顔をしていた。
シンプルなデザインの傘を差し、飾り気の無いショート丈のズボンに黒いニーソックス。
殆ど変わり映えしない、いつもの服装だ。
十五分前に到着していた犬川は、昨夜から楽しみで眠れず寝不足気味だったのだが、彼女の姿を見つけるとハイテンションで駆け寄ってきた。
二人は、デートでも温度差の幅が広い。
「おはよう、ミルちゃん!今日も可愛いね」
「おはよう」
照れた様子もなく、短く答えたミルは犬川を頭から爪先まで見た。
カーディガンやシャツなど、彼女同様にシンプルに纏めている。
一つ頷いて、ミルが「似合ってる」と呟くように褒めると、犬川が目を輝かせた。
「本当?ありがとう、ミルちゃん。嬉しい!」
「……うん。どこか入ろう。屋根がある所に行きたい」
傘を少し上げ、空を見たミルが疎ましそうに眉を寄せる。
どうやら、雨が嫌いらしい。
それに気が付いた犬川が、気遣うように彼女を見た。
「雨、嫌いなの?」
「うん」
「言ってくれたら、晴れの日に変えるよ」
傘で顔を隠しながら、雨音よりも若干だが強めにミルが答える。
「……犬川君と会える日が多い方が良いから、雨でも来たの」
喜び過ぎて少し鬱陶しい犬のような彼氏が、自分の傘へとミルを誘った。
雨も偶にだったら良いかもしれない、と猫のような彼女が密かに思った事は、犬川には秘密だ。
*fin*
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2013.4.9(10.13 加筆修正)