けもの日記

□ぬいぐるみ
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モノトーンで構成された室内は、年頃の女の子の部屋というよりも成人男性のような内装だ。

黒い市松模様のシーツがの掛かったベッドの上に、可愛らしい ぬいぐるみが一つ置かれているだけで、他には一切 可愛らしいものはない。

よく分からない土産品の人形が棚に三体並べられてはいるが、お世辞にも可愛いとは言えないだろう。

「入っていいよ。お利口にするなら」

素っ気ない態度で部屋の扉を開くミルに、人懐っこそうな青年――犬川は気にした様子もなく笑顔で頷いた。

「うん、ミルちゃんが嫌がる事はしないよ」

二人を見れば、力関係の差は歴然だ。

犬川の猛アタックで付き合っている為、頭が上がらないらしい。

それでも、ミルが本当に好きらしく、彼は尻尾でも振りそうな勢いだ。

「……何飲む?ミルクかジュース」
「ミルちゃんが好きな方にする。あ、俺も手伝うよ」
「大丈夫、一人で出来るから。座ってて」

バタン、と呆気なくドアが閉められ、犬川は溜め息を吐いた。

ミルは可愛くて仕方ないのだが、こうして構わせてくれない。

偶に不安になるのだ。
同情で付き合っているのでは、と。

気を取り直し、犬川は部屋に一つだけ置かれた ぬいぐるみに目をやった。

熊にも、犬にも見える。
正直、何の動物か分からない。

ちょうど そこに、ミルがシンプルなグラスと牛乳の乗った盆を持って帰ってきた。

それをテーブルに置き、犬川の視線の先に ぬいぐるみがあるのを見つけ、素早くベッドに飛び込む。

「うわっ!ど、どうしたの?ミルちゃん」

ぬいぐるみを抱え込む形で隠すミルに、彼は動揺を隠せなかった。

あまり運動神経のない彼女が ここまで俊敏な動きを見せた事は、今までに一度もない。


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