鬼物語

□拾肆章:禁門の変・後編
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「貴様が相手になるか!?」


会津藩士の人が刀を振り上げ、挑みかかろうとした瞬間、斎藤さんがスッと動き前に出た。


「止めておけ。あんたとそいつじゃ、腕が違いすぎる」
「…くっ」


会津藩士の人は悔しげな声を漏らしたが、渋々刀を引いた。

薩摩藩の味方と思える男の人は、私と斎藤さんと隊士の人たちを少し見た後、落ち着いた声で言った。


「池田屋ではご迷惑をかけましたな」
「…!?」
『!?』


私と斎藤さんは彼の言葉にハッとなって息をのんだ。

私は前にみんなが話していたことを思い出した。


「そいつらは、長州の者ではないと言ったそうだな」
「あぁ」
「だが、あの日は池田屋も人払いをしていたはずだ」
「…てことは?」
「何らかの目的で潜入していた他藩の密偵かもしれない」



もしかして、池田屋にいた人ってこの人の事…?


「彼の額の傷は大丈夫でしたか?加減ができずにすまなかったと伝えてください」
「藤堂を倒したのはあんたか。…なるほど、それなら合点がいく」


斎藤さんは静かに応えた。


「…?」
「大方、薩摩藩の密偵として、あの夜も長州勢の動きをさぐっていたのだろう」
「……」


そう言った後、斎藤さんは距離を詰め、次の瞬間に目にも止まらない速さで刀を抜刀し、剣先をピタリと男の人の眉間に定めて止まっていた。

けれど刀を向けられているにも関わらず男の人は顔色1つ変えず、ただ静かに斎藤さんを見返していた。




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