鬼物語

□拾参章:禁門の変・前編
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<千鶴said>


元治元年七月。

近藤さんの招集を受けて、私は幹部の人たちと一緒に広間にいた。

上座には近藤さんを中心として土方さんと山南さん、向き合う形で幹部の人たちが座っていた。

そして、彼らの後ろには隊士たちも控えていた。


「会津藩より正式な要請が下った。長州制圧のため、出陣せよとのことだ」
「ようやくきたか!」


待ってましたといわんばかりに最前列の永倉さんが声をあげると、近藤さんは感慨無量の表情で、


「ついに会津藩も、我々の働きをお認めくださったのだ」


と目頭を押さえ、しみじみと頷いた。


「よっしゃー!新選組の晴れ舞台だ!」


嬉しそうに拳を上げた平助君に原田さんがすかさず言った。


「平助、お前はまだ傷が治ってないんだからさすがに無理だろ」
「えーー!?そんなぁ!」


平助君はおおげさに顔をしかめた。

そして、彼の左隣にいた沖田さんがうっすらと笑った。


「怪我人は大人しく此処で待機すべきじゃないかな?」
「そういう沖田君もですよ」


近藤さんの横に座っている山南さんがすかさず言った。


「不服でしょうが、私もご一緒しますので」


不満顔だった沖田さんは、平助君と顔を見合わせると溜め息をついた。


「雪村君。君は我々と共に行ってくれるか?」
『えっ!?』
「千鶴を?」


私と平助君は同時に声をあげた。


「戦場に出てくれというわけではない。伝令や怪我人の手当てなどをお願いしたい。……面目ないが今は人手が足りなくてな」


近藤さんがそう言うと平助くんは責任を感じて小さくなって頭を掻いた。

私は朝の光の中で見た池田屋の凄惨な光景を思い出した。

血を流して苦しんでいた隊士の人たち。

怪我の手当てくらいはお手伝いしたいと思っていても、正直恐ろしいかった。

私はどうすればいいか迷いながら土方さんのほうを見ると、視線があった。


「無理に、とは言わん。行くか行かないかは自分で決めろ」
『私…』


私は土方さんから他の幹部の皆さん、そして隊士の人たちへと目を移し、そして心が決まった。


『私でもお役に立てるなら……行きます』


きっぱりとそう言うと近藤さんはほっとした表情になった。



「千鶴、オレたちの分もしっかり働いてこいよ!」


励ます平助くんに、


『う、うん。頑張るね』


私は拳を突き上げる真似をしてみせた。


「遊びに行くのではありませんよ。くれぐれも、みなの足を引っ張らないように」
『は、はい!』
「よし!いっちょやったろうぜ!」


永倉さんが立ち上がり、隊士の人たちを鼓舞した。


「うおおっ!」といっせいに声が上がった。




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