鬼物語

□拾弐章:祇園囃子
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〜千晶said〜

池田屋事件と言われたあの夜から九日。

土方さんの言い付けで四人分の白湯と薬の袋を載せたお盆を手に私と千鶴ちゃんが広間に入ってきた時、幹部の人たちは談笑をしていた。

池田屋での一件があった後、新選組は逃げた過激派浪士たちの行方を追っていたため、こうして幹部の人が一堂に会うのは久しぶりだと聞く。

それに妙に慌ただしかった屯所内が、落ち着きを取り戻しつつあってるのを感じた。


「お薬です」


私と千鶴ちゃんは池田屋で怪我を負った総司さん、平助君、永倉さんの前に白湯と薬を一包ずつ置き、それから山南さんの前にも置いた。


「おや、私も飲むのですか?左腕の傷はもう塞がっていますよ」


山南さんが意外そうに腕を示すのに、


『土方さんが山南さんにもって言ってました』


私がそう応えると、山南さんは黙って副長を見やったが、副長はまるで"飲め"といわんばかりに山南さんを鋭い目付きで見返した。


「試してみましょうよ山南さん」


組長が薬の包みを開けて、粉薬を口に入れる。

山南さんは小さくため息をつき、気の進まない様子で薬の包みに手を伸ばした。


「副長命令とあれば」
「そういえば石田散薬って特別な処方でもした物なの?」


原田さんの隣に座っている総牙が問いかける。

総牙は大怪我はしていないものの首に締められた跡が強く残っている。

それを隠すために今は首に包帯を巻いていた。


「石田散薬か?ま、特別っちゃ特別だな」
『確かこの薬って土方さんの実家で作られているんですよね』
「そうだよ、よく知ってるね」
『はい、家に昔からあったある文献に書かれてあったのを読んでましたから』
「そうなんだ、千晶ちゃんって物知りなんだね。でも、この薬ってどんな効果があるんですか?」


千鶴は少しだけ目を見張る。

そんな千鶴に額に包帯を巻いた平助君が薬の包みを指に挟んだまま、


「切り傷打ち身にどんな痛みも飲めばピタリと治るは石田散薬!さぁさぁ飲んでごろうじろ!ってね!」


身振り手振りでやってみせた後、「本当なんだかどうだが」と小さくつけ加えた。

近くで黙っていた土方さんは拳を作ってみせると、



「試してみるか?」


と訊ねた。

それを聞いた平助君は慌てて薬の包みを開き、


「か、勘弁してくれよ!これ以上傷が増えちゃ洒落になんないって!」


粉薬をサッと口の中に入れた途端、苦そうに顔を歪めた。




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