鬼物語
□拾章:池田屋事件・前編
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【千晶said】
その日の夜、私たち新選組隊士は揃いの羽織、揃いの鉢金を身に付けた状態で整列をしている。
「動ける隊士は、これだけか……」
目で数を数えた土方さんは、僅かに眉を曇らせた。
幹部の人たちを入れても人数は三十人余り。
「申し訳ありません。怪我さえしていなければ私も……」
見送りに出てきている山南さんが、千鶴ちゃんの横で無念そうに詫びた。
「いや、山南君には留守をしっかり預かってもらわなくては」
近藤さんはそう言って山南さんに対する信頼を見せた。
その時私はふと、少し離れた暗がりで、原田さんと斎藤さんがひそひそと話を始めているのを見かけた。
「こんな時、あいつらが使えれば良かったんだがな」
原田さんの言葉を耳にした私は、何のことだろう、と思い、視線を原田さんたちに向けた。
「しばらくは実戦から遠ざけるらしい。血に触れるたび、俺たちの指示も聞かずに狂われてはたまらん」
血に触れるたびに…狂われては……?
それってどういう意味だろ…。
「会津藩と所司代は、まだ動かないのか?」
土方さんの焦れた声に私はハッとなって我に返った。
「何の報せもないようだよ」
井上さんの返答に、土方さんは舌打ちをして
「確たる証拠が無けりゃ、腰をあげねぇってのか……。近藤さん、出発しよう」
と、近藤さんを促した。
「だが、まだ本命が四国屋か池田屋か分からんぞ」
うーむと腕組みをする近藤さんに、山南さんは言った。
「奴らは池田屋を頻繁に利用していたようですが、古高が捕縛された夜にいつもと同じ宿を使うとは考えにくい。四国屋を本命と見る方が妥当でしょう」
「しかし、池田屋の可能性も捨てきれまい」
近藤さんと山南さんの意見に耳を傾けていた土方さんが、
「……隊を二手に分ける。四国屋へは俺が行く。池田屋へは近藤さんが行ってくれ」
と、策を講じた。
「ならば、こちらは十一名で向かう」
「十一名で!?……じゃあ、総司、新八、平助を連れていってくれ」
「分かった。だが、こっちが本命だった時は頼むぞ」
僅かな人数で動く近藤さんに、土方さんは力強く頷いた。
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