鬼物語

□玖章:嵐の前の静けさ
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【総司side】


一君が千鶴ちゃんの腕を試してから数日後、僕は帰ってきた土方さんに早速呼ばれた。

その時、平助も呼ばれていて、ちょっと土方さんの部屋で座って待ってたら千鶴ちゃんも来た。

この様子だと結果が出たみたいだね。


「お前に外出許可をくれてやる」
「――ありがとうございます!」

さっきまで暗かった千鶴ちゃんの顔がまるで花が咲いたようにパッと明るくなって輝いた。


「市中を巡察する隊士に同行しろ。隊を束ねる組長の指示には必ず従え」
「はい!」
「総司、平助。今日の巡察はお前らだったな」


土方さんは脇に控えている僕らを見て確認をする。


「オレたち八番組は夜だから、ついてくなら昼の一番組の方がいいんじゃねぇの?」


八番組組長の平助が僕の顔を見る。


『浪士に絡まれても見捨てるけど、いい?』


と、軽口を叩く僕に、


「いいわけねぇだろうが」


土方さんは一喝してまた真顔になって千鶴ちゃんの方に向き直った。


「長州の連中が不穏な動きを見せている。本来ならお前を外に出せる時期じゃないんだが……」


過激な尊皇攘夷派の不逞浪士たちと、京の治安を守るために取り締まる僕ら新選組は、前から敵対関係にある。

尊攘派の中心となる長州は前に起こった政変で京から放逐されたんだけど、つい最近になって多くの長州人が京に潜伏していることが分かってきた。

緊張とか高まってる今、京は以前にも増して危険な場所なのだと土方さんは千鶴ちゃんに説明する。


「では、どうして?」


千鶴ちゃんは首を傾げた。


「京の町で綱道さんらしい人を見たって証言があがってきている」
「父様を!?」


千鶴ちゃんはハッとなって土方さんの顔を見つめた。


「これ以上、機会を延ばしていては綱道さん捜しも進まねぇだろうし、それに……半年近くも辛抱させたしな」


泣く子も黙る鬼の副長と言われても土方さんってなんだかんだ言って千鶴ちゃんには優しい。


「あの。……ありがとうございます」
「よかったな。千鶴」


平助の笑顔につられて千鶴ちゃんも、


「うん!」


と、大きく頷いた。




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