鬼物語
□陸章:傷跡・前編
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【総牙said】
―なんだよコイツ、怪我がすぐに治ったぞ!―
うるさい…。
―く、来るなっ!―
違う、俺は…。
―この…人の姿をした化け物めっ!―
『俺は…化け物なんかじゃないっ!』
そう叫びながら俺はあの悪夢から目を覚ました。
寝汗なのかよく分からないが俺の襦袢は気持ち悪いくらいじっとりと濡れていた。
『…ゆ、め…?』
夢。昔の記憶。一生思い出したくもない記憶。
あの頃の記憶なんか消えてしまえばいいんだ。
気持ち悪い、気分が悪い。
込み上げる思いを噛み締めながら俺はこの気持ちを夜風で消そうと思い、部屋を出た。
*―*―*
部屋を出て庭に行けば淡い月の光が庭中を照らしていた。
俺はすぐ近くの縁側に腰を下ろし月を見上げる。
『俺たちがここに来てもう3ヶ月近くか…』
時間感覚は俺たちの時代よりはっきりしていない今の現在のこの時代。俺がぼんやりと月を眺めていると背後の人の気配に気付いた。
『眠れないの、総司』
「……あのさ、僕気配消していたんだけど」
後ろを振り向けば悪戯が失敗した子供の様な顔をした総司がたっていた。
『総司の気配、なんとなく判るようになったからかもね』
「そう言われると、なんか残念な気分になるなぁ」
そんな会話をしながら総司は俺の隣に座った。
「で、なんで眠れないの?」
『ん?あー…、昔の夢を見たから?』
「それってさ、総牙がいた時代の事?」
その事を聞かれ、俺はビクッと肩を震わせた。
『うん、そんなとこかな』
総司の言葉に俺は曖昧な返事しか出来なかった。
「ふーん…そっか」
総司もまた曖昧な返事で返す。
それから少しの間だが俺と総司は話をしていた。
『ふぁ…、んじゃ、もう寝るな』
「総牙」
『ん?なに?』
「……何かあったら僕を頼ってね」
『なんだそれ』
「いいから」
『?…分かった』
総司の言っている言葉の意味を俺は理解出来なかった。
『それじゃ、おやすみ』
「うん、おやすみ」
その言葉は…ある意味俺にとってはこれから起きる事の始まりに近い様なものだったから。
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