小説
□ぷりんパン騒動
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「今日のパンはこれで最後だ」
セネルの一言でくだらない争いが勃発したある日の話。
ぷりんパン騒動
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「おい、どういう事だ!僕はまだ一個もセネルのパンを食べていないぞ!?」
青空を羽ばたくバンエルティア号に響くリオンの罵声。
「ぼっ…僕だってまだ一個も食べてない…よ…」
悲しそうに眉をハの字にするエミル。
「仕方ないだろう。俺は限られた数量しかパンを作らないんだ」
その相反する二人の標的、セネルは困ったように言う。
「えぇ…!?じゃあ…誰か1人しかこの、ぷりんパン食べれないの…?」
「……それならこの食堂には僕とエミルしかいない。どちらかになるな」
リオンはエミルに挑戦をかけるような鋭い目をむける。
「だったら…ぼっ僕はいいよ…リオンが…たっ食べなよ…」
「ほぉ戦わずして僕にくれるのか。とんだヘタレだな」
リオンの余計な一言にピクリと反応するエミル。すると…
「おい、てめぇ」
エミルの口から聞こえたドスの効いた声は、とてもエミルから発せられるとは思えないほどの、殺気に満ちていた声だった。
「誰がヘタレだ…!アイツと俺を一緒にするんじゃねぇ!俺はアイツみたいにオドオドして勝負事にすぐ引っ込むような弱虫じゃねぇぞ!」
リオンに言い放つエミルの瞳はさきほどの、きみどり色とは違い赤色の瞳をしていた。
そう…ラタトスク降臨だ。
「ちっめんどくさい奴が現れたか。…だが僕はこのぷりんパンはお前には譲らないぞ!」
そうリオンは言い、お皿に丁寧に乗せられているぷりんパンをお皿ごと手に取る。
「いい度胸じゃねぇか。俺だってそう簡単には譲らねぇぞ!」
ラタトスクも負けじとリオンの掴んでいる、反対の方のお皿の端を掴み引っ張る。
「はっ離せ!先に手にしたのは僕だぞ!?」
「はっ!そんなの関係ねぇよ!最後に手にした者の物じゃねぇのかよ!」
ギギギ…とお皿の端どうしを掴み引っ張り合うリオンとラタトスク。
「おっおい!たかがぷりんパンで何を争ってんだ!やめろぉ!恥ずかしいぞ!」
そんな二人を見かねて、セネルは声を張り上げ喧嘩を止めようとするが、まったく二人は聞いておらずため息をつく。
「…?セネル?いったいこの騒ぎはどうしたんだ?」
すると食堂を通りかかったアスベルがセネルに問う。
「……見ての通り、ぷりんパン一個によってたかって争ってるんだ…くだらない…」
「そうか…それは大変じゃないか!どちらかが、この喧嘩で怪我をするかもしれない!」
すでに“たかがぷりんパン一個で”剣を交えているリオンとラタトスクを、見て焦るアスベルは、
「俺が二人を喧嘩の怪我から守ってみせる!」
そう言い喧嘩の輪に入り止めようとする…が…、
「邪魔だアスベル!切り刻まれたいのか!?とばっちりを喰らいたくなければ、邪魔をするな!」
「てめぇ俺とコイツの喧嘩に勝手に入ってくんじゃねぇ!邪魔なんだよ!!」
殺気立った二人の罵声と瞳に、怖じけづいて泣く泣くセネルのもとに帰ってきた。
「おっおい…アスベル…?だっ大丈夫か?」
「俺は二人の身の安全さえも、二人の今にも砕けそうな絆さえも…マモレナカッタ…」
「あっアスベルー!?気をしっかり持て!何か急にHPが0に近づいていっているぞ!?」
「…セネル…すまない…俺はどうせ、幼馴染みに冷たくされ弟にはダメだしをされ、ソフィには守るとか言いながら守られ…ダメな奴だ……」
「アスベル!?HP!HP!もう限りなく0に近いぞ!?」
「ぶつぶつ…」
完全に鬱(マモレナカッタ)モードに入ったアスベルの肩を揺らして問いかけるセネルだが、どうやらまったくセネルの声は届いていないようだった。
「…ちっ…こうなったら……」
セネルはある意を決して、まだ争っているリオンとラタトスクの喧嘩の輪に近づいた。
「アスベルのためだ。悪く思うな」
「あっ!」
「おっおい!」
二人の喧嘩の元凶ともいえるぷりんパンをセネルは、お皿から取り、目にも止まらぬ早さでアスベルのもとへ走った。
「アスベル!これを食べろ!HP、TPともに全回復するぷりんパンだ!」
「…だが…これは…」
「死にかけの奴をほっとくわけにはいかないだろ!それに、あの二人だって死にかけの奴に譲らないなんて、酷い考えはないに決まっている!」
「「………」」
「すまない…ありがとう……もぐもぐ……!体の底から元気が湧いてくる…!美味しいな!セネルのパンはやはり凄いな!」
ぷりんパンを食べ元気を取り戻したアスベルに安心の目をむけるセネル。
そんな二人を見ながらリオンとラタトスクは、ただ呆然とその光景を眺めていた。
(なんなんだ…この様は……)
(僕はたかが、ぷりんパン1つに何を熱くなっていたんだ…客員剣士たるこの僕が…!)
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▼あとがき
この四人組が大好きな俺得の物語にしてみたw
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