紅い桜は鬼の如く……
□参
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ブシャッ!!!
そんな音と共に溢れ出す赤い液体は羅刹と私の顔を汚した。
鋭い痛みが走ると羅刹の歓喜の声が聞こえてくる。
「これだ、この血が欲しかったんだぁぁ!!!」
『っ!!』
なんでこんなに喜んでるの?
でも先程学んだ。にも状況で考えすぎるのは自殺行為だ。
折角の新品の羽織が切れてしまってもったいないと腹を立てながらも羅刹から離れる。
沖「大丈夫……じゃなさそうだね」
『すみません。自分の身は自分で守ると約束しましたのに……』
沖「喋らないの、っと!」
沖田さんは私の脇に腕をくぐらせ、引っ張ってくれる。それのお陰でもう一度切られずに済んだ。
でも切り付け続ける羅刹には避けるのが精一杯のようだ。
私が……足手まとい、だから……
どうしたらいいのだろうか。このまま死にたくない。そう強く願った瞬間、脳裏に言葉が浮かぶ。
『……桜の如く慌ただしく、それでいて美しい。でもお前には美しいなんて似合わない。ただ……散れ!!!』
「「!!」」
一瞬、羅刹と沖田さんは怯んだ。それを見逃さなかった。
ザシュッ!!!!
「ウガァ!………」
『ハァハァ……』
肩で息をしながら、羅刹の首にまた刀を当てる。グスッ!!と鈍い音と共に首から溢れ出す赤黒い血。
沖田さんは驚き、目を見開いている。
『すみません。状況理解は後々してください』
刀についた血を振り払い、拭い、鞘に納めた。
一瞬のことだった。
一瞬怯んだときに、沖田さんの腕から摺り抜け、刀を抜いて、羅刹の胸に突き立てた。
絶命する際の声も、私がすぐさま刀を抜いて、もう一度喉に突き刺した事により、あげきることさえ出来なかった。
『……どうせ夜しか動けないくせに』
私の喉からとは思えないどす黒い声が出る。
夜にって……何で知っているのだろう?……いや、考えすぎはよくない。
『行きましょう』
沖「……っ!?」
歩き出すと、さっき切った羅刹の生首を持って、沖田さんの前に突き出した。
沖「魅也ちゃん……」
『これは、沖田さんたちの仲間ですね?』
沖「………」
少し困って呆れている沖田さんの顔がイエスと言っていた。
『……行きましょう』
もう一度強く言うと、
沖「………」
沖田さんは無言で私に歩みを寄せた。
そして腕が伸びたと思うと、生首を持っていた手を叩かれた。
私は思わず目を見開き、生首を落としてしまう。
沖「魅也ちゃん、お願い、戻って……」
『っ……』
ガッシリと肩を掴まれ、次には抱きしめられた。
ふんわりと香る沖田さんの香り。
思い出したのは桜が満開に咲き誇るあの花園。
沖田さんの髪が段々白くなっていき、目は段々紅くなっていく。
何だろう……そんなことありえないのに光景がうかんでしまう。
沖「魅也ちゃん?」
『……沖田さん?』
沖「はぁ、よかった」
視界が、広くなった……
さっきまでのはいったい何だったんだろう?
大きく安堵の息を漏らした沖田さん。私は今の状況に気づき、体を離した。
沖田さんははてなという表情をしたが、顔がみるみるうちに赤くなる私を見て理解したようだった。
思わず視線を逸らしたが………
『ぁっ……』
自分で切った羅刹の骸を見てしまった。目が合ったように思えて、思わず刀の柄に手を添える。
沖「ダメだよ、魅也ちゃん」
そう言われながら柄に添えた手を沖田さんに解かれた。
『沖田さん……行きましょうか』
沖「……我慢しないでね」
『………』
涙を目に溜めながらも歩き出す私に、沖田さんは二歩下がってついて来てくれた。
その優しさがしみて涙が零れてしまった。沖田さんは二歩の距離を縮め、私の肩に手を置いた。
おかげでもっともっと泣いてしまった。
私はこの日、初めて人を殺した。
いや、羅刹を、化け物を殺した。
だとしても、殺したことには変わりない。
冬の凍てつく気温の中、冷えることもできないほど、涙が溢れた。
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