紅い桜は鬼の如く……

□弐
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「お前が倒れていたときあの桜の木には花なんて一つもついてなかったぞ」


『嘘だ……』



沖田さんに続いて入ってきた永倉さんはそう言う。確かに今考えれば、なんでこんな真冬に桜が咲いていたのか不思議だ。
でも絶対に咲いていた。私だって嘘を付いてない。


左米神に指を当てて考えていると、土方さんの隣に沖田さんがポスンと座ってこちらを見てきた。そのため私もそのまま沖田さんを見て固まる。


何か変なところでもあるのだろうかと考えるが、沖田さんは気にしていないように胡座をかいた膝に頬杖をしてニタリと笑った。



「でもいきなり倒れたから一応心配したよ。魅也ちゃんって本当に変な事を言うよね」


『へ?』


「鬼って」


『あ……何ででしょうね?』



ニヤニヤと話す度にイタズラな顔をしていく沖田さんに、私は布団からズレるように遠退いた。



「その話しは後にしろ!」



土方さんに一喝された。
このときばかりは不機嫌でよかったと心底思った。



「トシ、その子か?」


「あぁ」



永倉さんの奥からのっそりと覗いた顔。そのままドスドスと部屋に入ってきた。
土方さんと親しげに話し、愛称で呼ぶ人物といえば一人しか思い浮かばない。



「どうも、秋桜魅也君、と言ったかな?」


『………』


「私は近藤勇だ。ここの局長をしている。一つよろしく」


『………』



何も言わずに見つめていると、沖田さんから声をかけられる。



「今さ、近藤さんと話してるよね?」


『……はい』


「話してくれてるよね?」


『……はい』






「……話してくれてる…よね?」







怖いです!!!!!!



布団からズリズリと這い出る。
その姿を見て近藤さんは口を大きく開けて高らかに笑った。



「まあまあ、そう怒るな総司。急に初対面の人が話しかけてきたら驚くだろう?無視したわけじゃないだろうに」


「近藤さんを見て疑う人の方が少ないですよ」


「ん?そうなのか、トシ?」


「んなこと聞くな」


「どう見たって仏さんみたいな優しい顔じゃないですか。土方さんは自分が仏頂面だから人のもわからなくなっちゃったんですか?」


「……総司、もっぺん言ってみろ」


「何回でも言いますよ、赤鬼さん」


「んだと?誰に口聞いてやがる!!」


「土方さんが言えって言ったんでしょう?怒って顔が真っ赤だったから赤鬼って言っただけで、深い意味はないですよ」


「てめえいい加減にしろ!!」


「もしかして魅也ちゃんに言われたこと気にしてるんですか〜?いや〜意外と可愛いとこあるんですね〜」


「……表に出ろ」




『こ、近藤さん』


「何だい、魅也君?」


『その……これ、』


「ああ、大丈夫だよ。いつものことだ。二人は本当に仲が良くてな!」


「「良くない/です!!」」



見事にハモった土方さんと沖田さんは再び睨み合い、「何真似してんだ」「土方さんこそ」と争いを再開した。


私の話題から逸れてしまったことは喜ぶことなのだろうけど、如何せん二人の争いが尋常じゃないぐらい怖い。


近藤さんは慣れているのだろう、永倉さんと笑いあって「まあ魅也君の事はトシに任せるとして……」と言う。


流石にこのときばかりはこの男集団である新選組を束ねる局長だと信じれた。



「どうかしたんすか?」


「おお!平助か!まあ入れ入れ」



騒ぎを聞きつけたのか、藤堂さんがひょっこりと現れた。
最初は何が起きているのかという顔をしていたが、土方さんと沖田さんを見るとまたかと言わんばかりの顔をしている。
そんなに日常茶飯事なのか。



「魅也君」


『は、はい』


「この二人はとりあえず気にしないでくれ」



……それでいいんですか。



「そして本題だが、君には付き添い人を選んでほしい」


『付添人?』


「男しかいないこんなむさ苦しいところじゃ大変だろう。だから魅也君の面倒を見る人を選んでほしいんだ」


『わ、私自身がですか!?』


「あぁ。なぁに、難しく考えなくていい。誰の顔が好みかのような感覚で選んでみてくれ」


『え、えぇ……』



近藤さんは顔の半分を被い尽くすような口の大きさでガッハッハと笑った。
見渡すと永倉さんと藤堂さんが俯いている。それを見て少し察してしまった。
これは仕方がないと思い『あ、あの、近藤さん』と話しかける。




『わ、私、一人でいいです』


「ん?何故だ?」


『え……その、皆さん忙しいでしょうから』



皆が嫌がってるからだなんて言ったら近藤さんの事だ、皆を叱るだろう。
現に近藤さんはふて腐れた顔をして、私を見ている。



「そうか……なら、俺が決めていいか?」


『へ!?』


「トシ、お前がやれ」


「んだって!?」


『こ、近藤さん!いりませんから、大丈夫です!!』



喧嘩をやめてまで嫌がる土方さん。ここまであからさまに嫌がられると、さすがに悪く思う。
軽く膝立ちになって近藤さんに言った。



「少しだが話しを聞いたよ」


「何をだ?」


「お前が魅也君曰く、鬼に似ているとな」


「!……」



この人はさっきまでの喧嘩を聞いていたのか。本当は馬鹿なんじゃないかと思った私は悪くない……はずだ。



「トシはあまり従ってくれないからな。“局長命令”と言ったら従ってくれるかな?」


「っ………」


『近藤さん、本当にいいですから……』
「いーや!よくない!!」


『………』



局長の権力を今使うなんてもったいない。


にしても困った。
だって土方さんがものすごく嫌な顔してるし……そう思って土方さんに視線を向けるとバッチリと目があってしまった。








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