紅い桜は鬼の如く……

□弐
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―――――。。。



川のせせらぎが聞こえる。


それに導かれるように目を開ける。


周りには桜が満開に咲いていて、他の木の青々とした葉が重なり、見事な色合いを見せている。


山からの水は川となり、赤い橋がかかっていて……


とても綺麗なのにどこか空虚感がある。



『人がいない……』



周りには自然しかない、人がいない空間。



『鬼?』



そう、いつか感じた鬼の空気。
音の種類の少なさが寂しさを伝える。



『鬼も一人では生きていけないんだ……』



サァーと柔らかい風が吹いた。


向こうに見えるのは……



『皆さん?』



新選組の皆だ。



ビュー!!
『!?』



凄まじい風。


桜は舞い散る。


そしてこちらに振り向く新選組の皆……



『土方さん?』



微笑んだ顔だ……



急に辺りが暗くなり満月が綺麗に照る頃、桜は狂い咲き、新選組を包み込む。


そして瞬きした後には、みんな浅葱色の羽織を来ていた。











「おい!!!」


『ふぇ!?』



ガバッと起きると、真横から聞こえた声に視線を向けた。



「はぁ……寝言か」


『へ?』


「自覚がないんだったらいい」



何故貴方が、そう言おうと口をパクパクするが何も出てこない。慌てている私に土方さんはまた冷酷な視線を向けた。


まただ……鬼の感覚がする。


羅刹とはあったことがあっても、鬼と出会ったことはない。羅刹は鬼なのかわからないけど鬼の感覚がわかる気がするのだ。
変なのと心の中で呟くとガラッと襖が突然開いた。



「土方さん、起きたか?」


「あぁ。皆を呼んできてくれ」


「はいよ」



ノックも無しに入ってきた新八さんが忙しなく出ていくと、土方さんは冷酷な視線をもっと厳しくして私を見た。



「何故俺の名前を知っていた?」



次はちゃんと疑問符を付けてくれた。


目は相変わらず冷酷だけど。



『ですから先程原田さんに……』


「………」



嘘を付くなとでも言いたげに睨まれる。



『……沖田さん、』


「あぁ?」


『沖田さんから聞いてませんか?』



未来から来ただなんて信じてもらえないのは重々承知で聞いてみた。



「……帰って来ていきなりお前の話になった。聞いたのはただ羅刹をお前に見られたと言う事だけだ」



そう応える大変御立腹な土方さんに目を合わせないように言葉を発する。
今から怒られるであろう、わかっていても言わなければ私は無事ではすまない。
嗚呼、人生を呪いたい。



『……私は未来から来たんです』


「未来?」



正直に言ったのに怪訝そうに私を睨みつける。



『桜の木があって……そこで私は死のうとしてました。でも、沖田さん達が助けてくれたんです』


「………」


『私は一回死にました。ですから、新選組にいたいんです。意味はわからないかもしれませんが……』
「待て」



言葉を間違えないように一言一言を探りながら話していた私は土方さんの急な静止に、喉がクッと鳴った。



「そのお前がいた時代とここは日時は同じなのか」


『はい、多分。家を出たのは夜中でしたし、だから花も月明かりで綺麗に見えてそこで死のうと……』


「だったらおかしいだろ。変な事を言う奴だ」


『?』



何がおかしいの?



「よく考えろ。今の季節を」


『へ?冬ですよね?』


「……で?」


『で!?』


「フッ……」



ドキン
『っ……』



土方さんはこんな反応した私がおかしかったのか、鼻ではあったが軽く笑ってくれた。


……何故動悸が起きたのだろう?



「魅也ちゃんはバカだね。真冬なのに桜が咲いてる訳ないでしょ」


『沖田さん!……普通にバカとか言わないで下さい』



ひょいと顔を覗かせる沖田さん。
いつも通りにイタズラっ子顔をしている。



「事実なんだからしょうがないでしょ?」


『地味に言い返せません』



沖田さんは満足げにニッコリ笑った。
悪魔が見えるのは私だけじゃないはず。








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