紅い桜は鬼の如く……

□壱
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「羅刹(らせつ)が脱走した」



羅刹?



「ヤバいだろ」


「しょうがないよ。土方さんたちがいなかったんだから」


「でも、すぐ殺しにいかないと!」



殺す?


急に物騒な言葉が聞こえた。あまりにもいきなり、そして自然に聞こえたため少しビクリと動いてしまう。



「………」



気付いて.....ない?



「総司?どうした?行くんじゃないのか?」


「ん.....この子、どうするの?」


「ん〜」



いっそのこと、殺しちゃう?
そんな雰囲気がハンパなく出ていたので、



『ん……』



今起きましたとばかりに唸りながら起きた。



『痛……』


「ごめんね?大丈夫?」


『ぁ、はい……何が...?』


「詮索はやめといた方がいいよ」


『.....そうします』



さっきまでフリをしていたのは気づかれてないっぽい。



「僕の名前は沖田総司。ほら、皆もさっさと挨拶して」


「俺は原田佐之助」


「俺は藤堂平助だ」


「んん、あー、俺は……」
「新八さんは長いから後で。君の名前は?」


「んだよ!酷いな!」


『………』


「急いでいるんだ。早く言わないと切るよ」



沖田さんは刀の柄に手をかけた。
やっぱりさっきの.....



「総司、物騒なことを言うな。相手は女だぞ」


『いいんです、原田さん。私は秋桜魅也といいます』


「そう、魅也ちゃんね。だったらしばらくここで待っててくれない?今から仕事してくるから。終わったら迎えにくるよ」


『私を迎えにくる理由がありません。今から死にますから気にしないで下さい』


「死ぬ!?そりゃあ止めろ!もったいねぇぞ!」


『………』



何なんだ、この人は……



「新八っあん、話しは後にして。今は早く殺……っ!」


『……どうしました?』


「い、いや、なんでもない」



自分で墓穴掘った藤堂さん。気付かないフリをしておいた。さっきのことでお互い様だ。



「じゃあここで待っててね、魅也ちゃん」



沖田さんはそう言って皆を連れて行ってしまった。
微かな凍った風が再び私に吹き付ける。さっきまで囲まれていたからあんなに暖かかったのか……



『変な人たち……』



見えなくなった姿をじっと見つめる。あの青年……絶対気付いてた。のに切らなかった。


ここがどういう時代でどういう世界なのかわかった。
この世界は私が今まで暮らしてきたぬるま湯のような世界ではない。


気に入らなければ切られる。
でも死に方ぐらいは選ばせてほしい。


そう思ってもう一度手首を引っ掻こうとしても、もう引っ掻ける物がない。キーホルダーは何処かにいってしまった。

何かないかとジャケットのポケットの中をまさぐると、財布が出て来た。


大量の福沢諭吉が出てきたが、この時代では役に立つものではない。


元に戻して反対側のポケットをまさぐってみたが、結局圏外の携帯と飴玉が10個ほどしかなかった。


このまま待つべきなのか……どうするべきか。



『何処かに引っ掛けるもの……!?』



ジャケットの左手首を軽く捲ってみて驚いた。



『傷がない……』



あんなにガジガジと引っ掻いたのに。
でも服には血がついている。


頭の中に“?”がいっぱい浮かんだ。




“行くぞ”



え?


いつかの声が私の脳内を響かせた。



“あいつらの後を追い掛けろ”



また……そんな気分じゃない。黙ってて。



“なんのためにここにお前を持ってきたと思っている?刀はやる。だから追い掛けろ!!”



誰かわからない強い口調に促され、いつの間にか側に置かれていた刀を持って立った。



『っ……何これ……』



刀を持った途端に満ち溢れた力。


思わず圧倒された。


そして走った。


今までにないほどの力に動かされているような感じだった。








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