紅い桜は鬼の如く……
□零
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―――――。。。
「あんたみたいな子はいりません!!出ていきなさい!!」
まただ……
ヒステリックに叫んだ母に、娘は溜め息をつく。
『はいはい、わかりました。帰って来ません』
「二度と帰って来なくていいわよ!!」
顔を真っ赤にしてそう怒鳴りつけた母。勢いで言ってしまったのか、少し言い過ぎたかな?って顔をしている顔に再度溜め息をつく。
『……わかった。帰って来てって言われるまで帰って来ないよ』
「勝手にしなさい!!!」
自分で出てけと言ったくせに勝手にしなさいって……ふざけてる?
すっかりと恒例になったしまったこの喧嘩に終止符を打ち、身仕度を始める。
財布と上着、それに携帯を持って家から出た。
財布の中にある金なんて、いつかは尽きる。携帯だって、契約を切られればただの板。
当てになるのはこのジャケットだけ。
冬の寒さは身に凍みる。ジャケットの襟を軽く立てた。
ちょっとダサいけど、寒さより色気は取れない。
我慢我慢、そう言い聞かせて行く当てもなく歩いた。
私は秋桜魅也。
勉強も運動も人並みに出来るつまらない人間。
周りから見ればそんなことはないと言われる程度だ。
さっきまでの喧嘩の理由は夜ご飯の事。
出されたご飯はいつもの味だった。
それで何故喧嘩が起きるのか。
それはいつも家事をしないお母さんがいきなり家事をすると言い出したからだった。
「今日ぐらい私がご飯作るね!」
『お母さんが料理するといろいろ不安なんだけど』
「うるさいわね!私だって出来るわよ!!」
唯一の助けの父は仕事でいなかった。
「出来たわよ〜」
『……何、これ』
出てきたのは多分インスタントであろうラーメンに、ぶつ切りにした野菜炒めがのせてあった。
見なりが悪すぎてまずそうに見える。
見なりが悪いだけだろう。
無理矢理そう言い聞かせて食べた。
『いただきます。……っ!』
「まあまあ美味く出来たわ〜」
一口食べた瞬間、この世の者が食べるには無理がありすぎる味が口いっぱいに広がった。
一言で言えば、まずい。
まずいとしか言えない。
インスタントラーメンをここまでまずく出来るのはある意味凄い。
それに加え、この味で美味しいと言える我が母の味覚に驚いた。
これがいつもと同じ味。この人が作るとこの味になるのはわかっていた。
でも、今日のは酷すぎる。
そして思わず、
『まずい……(ボソッ)』
「は!?」
と、言ってしまった。
ボソッて言ったのに……
何はともあれこれがきっかけで母は怒ってしまい、私は追い出された訳だ。
いつもの光景、よくあることだった。普段は怒っても私は出て行ったりしないから、今日もあんなに強く言ったのだろう。でも私は家を出た。
今頃お父さんが帰ってきたらどうしようかと焦っているに違いない。
家出した娘を心配するより、自分が怒られないか心配する母親って……
まずいご飯をまずいと言って何が悪いんだ。表現の自由というのがこの世の中にはある。
あの人の作ったご飯は本当にまずい。
二回しか食べてないんだったら比べようがないと言う人は、一度母のご飯を食べてみてほしい。
一回目も酷かったな……
(チャーハンの卵を三個割って、絡めてから出してきた。炒めてない)
そんな事を考えては吹き荒れる冷風に身を凍らし、歩き続けた。
母が他人と関わるのを酷く嫌う方だったので、私には親しい友達もおらず、今行く宛もなかった。
こんな事なら母親に依存せずに真っ直ぐに生きればよかった。
私はスっと夜空を見つめる。あまりの静けさと雪にこの世界には私しかいないように感じる。
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