紅い桜は鬼の如く……

□拾玖
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〜慶応三年 一月〜




数日前にうっすら積もった雪がまだ消え残り、朝日にキラキラ輝いている。


屯所に外廊下と中庭を繋ぐ階段に座っていた原田さんが、いきなりすっとんきょうな声をあげた。



原「伊東さんに接待されただぁ?」


永「しーっ!声がでけえぞ、左之」



隣に座っている永倉さんが慌てて辺りを見回す。


幸い、数段上に足を投げ出している沖田さんと、その沖田さんに無理矢理連れて来られた私。中庭で居合いの稽古中の斎藤さん、洗濯物の入ったたらいを抱えている千鶴ちゃんのほかには、人影もない。



永「引き抜きの誘いだった」


千鶴「引き抜き?」



声をひそめる永倉さんに、千鶴ちゃんは驚いたようで聞き返した。


参謀の伊東さんが引き抜きするとは……案の定だな、と集中力を高めている斎藤さんの横で呟く。



永「今の新選組に不満はねぇかとか、攘夷のできない幕府はもう終いだとか散々言った挙句、自分と一緒に来ないかってな」


千鶴「永倉さん、なんて答えたんですか?」


永「“しこたま飲み食いさせてもらったけどよ。どうもあんたたち相手だと楽しくねえ”って言ってやったぜ」



痛快だと言わんばかりの表情に、沖田さんがニッと笑う。



沖「一君も一緒だったんだよね?」


斎「ああ」



斎藤さんは沖田さんに短く返事すると、巻き藁をスパンと斬って落とした。


私はその横で控えめに拍手する。




昨年の暮れ、徳川慶喜公が第十五代将軍に就任してたった二十日後に、考明天皇が崩御した。


前将軍の家茂公と考明天皇は公武合体派の拠り所であっただけに、ふたりが続けざまに亡くなったことは、幕府のために働く新撰組にも少なからぬ影響があるだろう。


しかし、私が聞いても何故新撰組に影響があるのかわからなかったため、比較的私はのほほんとしていた。






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