紅い桜は鬼の如く……

□拾捌
1ページ/95ページ






〜元治二年 三月〜




私と千鶴ちゃんは、広々とした夕暮れの境内を走っていた。


沈みかけた陽の光が、いままさに咲き誇る桜の花に差し、影を伸ばしている。


私はその桜にみとれる度に躓いていた。






新撰組がここ、西本願寺に屯所を移したのは、山南さんの一件があってから半月後のことだった。


長州に協力的だったこの寺とどんな風に話をつけたのか、私たちは知らない。


でも、山南さんのために必死だったのはわかった。



山南さんは伊東さんや平隊士たちの手前、隊規違反で切腹したことになっていた。


山南さん自身の発案だったためか、大体の人が大いに驚いた。


総長だろうが規則に反すれば切腹させる。規則の誠実さを出すために考えたことなのだろうが、私はあまりいい気はしなかった。


無論、山南さんは生きている。この広すぎる西本願寺で。


千鶴ちゃんはここにきてしばらくは迷っていたほどだ。





角を曲がり、境内の裏手へ出ると、山南さんが建物の陰に腰を下ろしているのを見つけた。


二人で寄っていくと、山南さんはふとこちらを見る。



千鶴「山南さん、食事の準備ができました」


山南「君でしたか。ありがとう」



山南さんはそう言って微笑んだ後、私だけ残るように指示した。


千鶴ちゃんは「待ってます」とだけ言って、素直に戻っていった。






_
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ