紅い桜は鬼の如く……
□拾捌
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〜元治二年 三月〜
私と千鶴ちゃんは、広々とした夕暮れの境内を走っていた。
沈みかけた陽の光が、いままさに咲き誇る桜の花に差し、影を伸ばしている。
私はその桜にみとれる度に躓いていた。
新撰組がここ、西本願寺に屯所を移したのは、山南さんの一件があってから半月後のことだった。
長州に協力的だったこの寺とどんな風に話をつけたのか、私たちは知らない。
でも、山南さんのために必死だったのはわかった。
山南さんは伊東さんや平隊士たちの手前、隊規違反で切腹したことになっていた。
山南さん自身の発案だったためか、大体の人が大いに驚いた。
総長だろうが規則に反すれば切腹させる。規則の誠実さを出すために考えたことなのだろうが、私はあまりいい気はしなかった。
無論、山南さんは生きている。この広すぎる西本願寺で。
千鶴ちゃんはここにきてしばらくは迷っていたほどだ。
角を曲がり、境内の裏手へ出ると、山南さんが建物の陰に腰を下ろしているのを見つけた。
二人で寄っていくと、山南さんはふとこちらを見る。
千鶴「山南さん、食事の準備ができました」
山南「君でしたか。ありがとう」
山南さんはそう言って微笑んだ後、私だけ残るように指示した。
千鶴ちゃんは「待ってます」とだけ言って、素直に戻っていった。
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