紅い桜は鬼の如く……
□参
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私はあれから寝てしまい、起きた時にはもう夜だった。
見回してみるが冥たちはいない。
お腹がぐうと小さく鳴る音に目を細める。
『……ん?』
なんだか廊下がドタドタと騒がしい。
すぐさま羽織袴を直し、腰に刀を差す。
ガラッ
沖「っと、ごめんね」
『沖田さん』
格子戸を開けて出たとき、丁度沖田さんが部屋の前を通るときだった。
ぶつかりそうになって詫びる沖田さんにこちらこそといいながら周りを見渡す。
『沖田さん、何があったんですか?』
沖「ちょっとね……」
私の質問に言葉を濁す。
沖田さんは滅多に嘘を言わない。冗談はよく言うが、わかりやすい雰囲気を出すからすぐにわかる。
だけどこの表情……一つしかない。
『羅刹ですね』
沖「っ……」
『また逃げ出したんですか?』
わからないわけがない。それに空気がなんとも言えない血腥さを孕んでいるのがわかる。
沖「魅也ちゃん、それ以上言わないで」
『切りますか?』
沖「………」
自分でも驚くほどの迫力で言っている。でもここで引くことはできない。
『私、この世界に来てわかった事があるんです』
沖「え?」
『言いませんけどね。知ってしまえば、皆さんに迷惑がかかります。……それなら私が死んでしまえばいいだけですけど』
沖「………」
私は鬼なんです。
綺麗な桜の心さえ、血で汚す、悪い悪い鬼……
今日の稽古でわかった。私は剣道なんてやったことはなかった。武道を少しというのは空手、柔道、合気道の三つだ。
なのにすべてがわかるかのように動けたのはきっとこの世界にきた時に鬼になったからだ。
だったらすることは一つだ。
土方さんが"鬼の副長"をしているように私は"鬼"になる。できるかどうかじゃない。やるかやらないかだ。
『私も連れていって下さい』
沖「………」
『お願いします。斎藤さんはもう出ていらっしゃいますでしょ?』
この前のように斎藤さんは出ていると感じた私は、そう沖田さんに言い放った。
だからなんだという話なんだけど……急に起きたことに対処しきれずに用意が間に合ってないのが私にはわかる。
沖「……はぁ、まったく、魅也ちゃんには敵わないよ」
『ありがとうございます!』
沖田さんならわかってくれると思っていた。だけど私の身分でこんな生意気な事を言うだなんて、失礼きまわりない。でもそんなこと言ってられない状況なのだからいいだろう。
沖田さんは苦笑いしながらも「自分の身は自分で守る」という条件付きで許してくれた。
私はまだなれない足袋と草履を履いて、門を潜り抜けたのだった。
―――――。。。
グギャャ!!!!
沖「………」
『羅刹の声ですよね』
沖「……来るよ」
『……はい』
私にも感じられた気配。あの時の羅刹と同じような声だ。
屯所では与えられていた安心感が外に出ると急になくなる。
あんなに強気だったのに羅刹の声が聞こえた瞬間、なんとも言えない一瞬の震えが襲う。
『ぁ……』
ひょっこりと羅刹がでてきた。
改めてじっくり見てみると、羅刹とは不思議なものだ。
真っ白な髪の毛は白髪とは少し違い、張りがある。
目は瞳が真っ赤に染まって少し光り輝いている。
なんというか……怪物という感じだ。
「血、血を……血をくれぇぇ!!!」
『!?』
沖「相変わらず下品な声だねぇ」
沖田さんはニコニコとしながら言う。
完全にふざけてるし、おちょくってる。
そんな空気が羅刹にも伝わったのだろう。睨みつけると奇声を発しながら切り付けてくる。
沖田さんと私が避けた間にガキンッ!と刀が振り下ろされた。
沖「あっ」
『!!』
沖田さんがそう言った時には既に遅し。
そのまま左側から刀が見えた。
近づいてくる刀に悲鳴をあげる暇もなかった。
ザシュッ!!!!
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