紅い桜は鬼の如く……

□弐
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―――――。。。



雀がチュンチュンと元気よく鳴いている。


それと共に朝日が私の顔に差し込んだのがわかった。




「!?、魅也!?」


『スースー……』



眠たいんだから起こさないで……



「おい!魅也!!」


『へ?』



はっと気づくと、目の前には原田さんがいた。
自分で驚くほどの掠れた声に、原田さんも驚いた顔を見せる。



「へ?、じゃねぇよ!!ったく、早くこっちこい!」


『冥たちがいるんです!!引っ張らないで下さい!!』



布団を掴みながら声を荒らげる。
その様子にも原田さんは驚いたようだ。


その声を聞いてか腕の中で愛らしく鳴く二匹に私もはっとする。



『す、すみません……』


「いや、俺こそ悪かった。その話は総司から聞いてたんだがな」


『い、いえ……』



沖田さん、ちゃんと言ってくれたんだ……

ホッとしてふたりを見つめる。くりくりと愛らしい瞳で懸命に生きている。そっと額に触れようとした時だった。




ドクンッ!!!




『ぇ?……』



何?この鼓動……


黒いものが渦巻くこの気持ち。急に轟く鼓動に狼狽える。



ドクンドクン………



『鬼だ……』


「鬼?」



私の突拍子もない言葉に原田さんは驚いている。鬼と言ったから羅刹のことかと思ったらしい。でもそれとは違う。


今まで会ったこともない人。なのに私は知っている。



『いえ、多分……皆さんが言う副長?』


「土方さんか?」


『は、はい……』



鼓動が伝わる。


でもその鼓動は、とても鋭く、とても冷酷だった。


私のより鋭く冷酷な鼓動は、孤独と覚悟にも似ていた。



「帰ってくるのは今日の夜のはずだぞ?」


『で、ですが……』



本当にそういう感覚がするんだから仕方がない。信じていない原田さんだったが、遠くから話し声が聞こえて帰ってきたんだと理解する。


「……仕方がねぇな。行くぞ」


『……はい』



歩き始めると共に、強くなっていく鼓動に気持ち悪くなってくる。頑張って耐えるが気分の悪さはどんどん増してくる。



部屋に着く頃には、



「おい、大丈夫か?」


『はい、気にしないで下さい……』



ハァハァと短く吸い込まれ続ける息だけで意識を保っていた。



「原田です。入ります」



私の言葉を素直に信じて、原田さんは部屋の中からの返事を待たずに障子を開けた。



ガラッ
『っ……』



開けた途端、目に入った光景。


向かって左側に座っている漆黒のオーラに目を奪われた。





「昨日の騒ぎを見たと言うのはその女か」





背筋が凍るのを感じた。



まるで、首根っこを捕まれたような感覚。とても居心地が悪く、それでいて強い憧れを抱く感覚が一気に襲った。



「女、名前は秋桜魅也と言ったな」


『は、はい……』


「貴様の話は総司から聞いた。今は保護をすると言う形で処分を終える」


『………』


「どうした?嬉しくないのか?」



嬉しくないのかって……



『そんな顔をしながら言われても、説得力ありません』


「あぁ?」



“お前の事、俺は信じていない”なんて目をしながら言われてもな……今回の件の結果に納得していないようだし。


折角のご好意で助けて貰ってるのに、私の言葉は失礼極まりない。わかっているのにそれを止めることはできなかった。



『本当は邪魔でございますでしょ?』


「………」


『土方さんはそのような顔をしておられま……』
ジャキッ!!!!



金物の音。私の目の前に銀色に光り輝く刀が鎮座していた。少しでも動いたら切れてしまいそう。


さっきまであった私との距離は一瞬でなくなった。睨むように私の目を見ている土方さんの瞳は綺麗だった。



「……何故反らない」




そう言われるまで私は土方さんの瞳をじっと見ていた。声をかけれられてそういえばそうだと思い出す。私は刀を向けられているのだ。


なのに何故動けないんだ。怖いから動けないのか、怖くないから動かないのか、よくわからない。


嗚呼、ダメだ。この瞳に吸い込まれそうになる感覚がする。逆らえない。


なのに……なのになんて、



『……寂しい目』


「あぁ?」


『あの時の鬼と同じ目をしています』


「!……」



溢れ出す言葉は留まることを知らない。魔法にかかっているかのように、私の言葉は流れ出た。



『貴方は、どんな覚悟で孤独を選んだんですか?』


「っ………」


『私には、無理をして鬼になったような気がしてなりません』



抱いた感情がスルスルと水のように出てくる。


嗚呼……クラクラする。



バタンッ!!


「お、おい!」



次の息をする間に、私の意識は途絶えた。








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