紅い桜は鬼の如く……

□壱
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―――――。。。




……何か聞こえる。


男の人の声だ。とても優しいのに、刺のある声。


今、死んでて眠いんだから起こさないで……



「死んでねぇよな?」


「あぁ、息はあるからな」


「でもなんでこんなに血だらけなんだ?」


「さぁ?何処にも傷はねぇんだが……」



会話の意味がわからず、確認のためそっと目を開けた。


目の中に薄く光りが差し込み、軽く眩しい。


目の前には驚くほど綺麗な顔の男ふたりがいた。



「っ、起きたか?」


『………』


「佐之、怖がらすなよ」


『………』


「新八も怖がらせてるよ」


「何ぃ!?」



二人の会話の意図と意識は私に向けられているんだよね?死んだはずなのに?


それにこの人達、時代劇みたいな格好している。


まさかね。まさかトリップなんて、タイムマシーンがないと………



『っ!?』


「「うお!」」



嘘だ!!!


そう思っていきなり立ち上がった。
さすがに驚いたらしい。


しかし急に立ち上がるものではない。
一気に血の気が引き、尻餅をつくように再び座り込んだ。
右側だけしか役割を果たしていないジャケットをお尻で踏み付けてしまう。



心配をしてくれる二人組を睨み付けながら問いかけた。



『あ、あの……今西暦は何年でしょう?』


「西暦?」


『暦です』


「それなら、もうすぐ文久四年だっかな?」


『そうですか……文久三年の十二月ぐらいですね?』



佐之と呼ばれた人の答えに肩を落とした。


1860年代だったかな?多分それぐらいだ。



「お嬢ちゃんは何処から来たんだ?しかもこんな寒い日に、変な格好して」


『変?』



掠れた声で聞き返す。


確かにジーンズにジャケット、洋装だ。この時代の日本ではあまり無い。
もそもそと左側にも袖を通して軽く深呼吸する。



『私は……未来から来ました』


「?」



はてなと首を傾げる二人。



『信じてもらえないだろうから信じなくていいです』

「………」



佐之と呼ばれた人は私の冷たい言葉に顔を曇らせた。


私、こんなに冷たくて冷酷な声してたっけ?



『あ、あの……』
「新八っつぁん達!!」


『?』



逆に何故そのような格好をしているのかと問おうとした時だった。
いきなりふたりの男たちの背後から声が響いた。



「あぁ?平助じゃねぇか。どうした?」


「どうしたもこうしたも、夜中に屋敷を出るだなんて、いくら土方さん達がいないからってしちゃあいけねぇよ!しかも今……!!」


「硬い奴だな。いいじゃねぇか。巡察は終わったし、ついでに月見でもしようとしただけだろうが」


「月見?」


「あぁ。そうしたらこいつを拾ったしな」


『………』


「ん?みかけねぇ格好だな。洋装か?」


「みたいだぜ」



この人達いったいなんなんだろう?


浅葱色の羽織……
何処かで聞いたことがあるような気がする。


皆を睨みつけて考えこんでいると、遠くから、また、おーい!という声が響いた。



「ん?この子、何?」



遠くから颯爽と走ってくるイケメン。なんとも言えない雰囲気を纏っている。
まだ青年だろうか。ここにいる人たちは皆若そうだが、この青年はより一層若く見える。



「総司、拾ったんだよ」


「ふ〜ん………」



総司と呼ばれた人は私を頭から足まで隅々と見た。
そしてニッコリと私に笑いかける。


無意識に肩が強ばるのを感じたが、青年は気付いているのかいないのか、周りの皆に目を向けた。



「っと、そんなことより、大変だよ」


「だからどうしたんだって」


「……その子、眠らせるよ。ごめんね」


ドカッ!
『!?』



突然の首からの強い衝撃に気を失いそうになった。いきなり肩を掴まれたと思ったら急にこれだ。嫌でも身構えて気絶しないようにしてしまう。


そうはいっても体は正直だ。前に倒れそうになる。その体を総司と呼ばれた人が受け止めてくれた。



「ごめんね。聞かれちゃいけないことだから」



青年とは思えない艶めかしく放った色気と言葉に思わず動きそうになるが、なんとか堪えた。


おとなしく聞いていたほうがいいだろう。そして気絶しているフリをしながら盗み聞きすることにした。








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