テキスト(学パロ)

□三年目の真実
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「――は? 女の子を後腐れなく綺麗に振る方法ぉ? どしたのいきなり」

 悩んだ挙句の駆け込み寺、といえば私にはこの人しかいないわけで。

「ゆうちゃんなら知ってるでしょ。もったいぶらずに教えてよ」
「やーやー意味わかんないし。あー、もしかしてリクがかっこよすぎて女の子に告白でもされた系? モテる男はつらいねぇ」

 ベッドからのろのろと身体を起こしながら、優子は寝ぼけ眼で大きく伸びをする。

「ふざけないで真面目にしてよ」

 それがやけに茶化されているように見えて、無意識に棘のある言葉が出てしまった。
 私のその一言でほっぺたのえくぼが消えて、眉尻がぐんと下がる。
 確かに文化祭の準備でここのところずっとばたばたしていたし、疲れているのもわかる。けど、根本的な原因を作ったのは優子で、私だって切羽詰まった状況だ。心に余裕がない分、つい八つ当たりするような態度になってしまうのは仕方がなかった。

「なんかあったの?」
「ごめん。私……どうしたらいいか、ほんとにわかんなくて」
「ううん、あたしもごめんね。ちゃんと話聞くから、一から説明してもらっていい?」

 服の袖を引っ張られて、ベッドに座るように促される。
 保健室で寝ているところへ急に押し掛けて、それこそ訳も言わずに噛みついた私に優子は笑いかけてくれる。
 こういう時でも怒ることなく冷静にいられるのがさすが生徒会長をしているだけあるというか。優子という名前の通り、本当に優しい子だなって思う。

「にゃんにゃんが落ち込むってめずらしーねー。どした?」
「朝、ね。陽菜がここにつれてきた女の子覚えてる?」
「あー、借りてきた猫みたいになってたリボンの二年生ね。あの子がどうかした?」
「なんか、私のこと好きだって。あ、陽菜じゃなくてリクの方で」
「は? にゃんにゃんのこと男と勘違いしてるってこと?」
「うん。そうみたい」

 眉根を寄せながら首を傾げる優子に、事の発端から今に至るまでの経緯について、順を追って説明した。

 保健室の段階で男と勘違いされていたらしいこと。
 屋上で寝ている間に告白されて、付き合ってもいいと返事をしたらしいこと。
 なぜかその友達の板野さんに説教っぽく責められ続けたこと。

 すべてを話し終える頃、彼女の表情はわかりやすいぐらいに引き攣っていた。まぁ、今の状況だとそうなるのが普通の反応だと思う。

「確かにリクはかっこいいし、そういう感じの話もしたけどさぁ。あれで勘違いしちゃうんだ……」
「ねー。純粋な子なんだろうなー。初めて喋ったのに、板野さんめっちゃ怒ってたもん」

 女の子からあれだけ一方的に責められるなんて久々だったから、思い出しただけで気分が沈んでしまう。それが同学年の顔見知りやクラスメイトならまだしも、一学年下のまったく知らない生徒だったからなおさら尾を引いているというか。

「ともちんかー。ああ見えて結構熱いし、真面目だし。一回スイッチ入ったらなかなか切れないタイプなんだよね」
「そうなんだ……さやぴぃがいなかったらもっと責められてたかも。苦手意識ついちゃったなぁ……」
「まぁでも誤解は解けたんしょー? 大丈夫だって。問題はリボンちゃんだなー」

 考え込むように腕を組んで、優子は唸り声を上げる。
 問題というか大問題というか、どうすれば丸く収まるのかなんて考えても悔しいほどに何も出てこない。一旦オッケーしてしまったものを撤回するという行為が彼女を傷つけることになるのだから、むしろ丸く収めること自体が不可能な気さえしてきた。
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