テキスト(学パロ)

□同級生
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「才加はもうお昼ご飯食べたの?」
「うん。さっき店番してる時に食った。小嶋は今からか?」
「そうなのー。交替の子が戻ってこなくて食べそびれてて。でもこの格好じゃうろうろすると目立つから、購買にパン買いに行こうかなって思ってる」
「購買? 今日休みだぞ」
「え、うそ。ほんとに?」

 才加は頷いて、文化祭前から張り紙してあっただろ、と付け加えた。
 そういえばそれらしい張り紙を見た覚えもある。普段購買にはあまりいかないから、それがこんなところで仇になるなんて。

「じゃあもういいや……寝て空腹を紛らわせてくる」
「そんなんじゃ後夜祭まで持たないだろー? これでよかったらやるよ」

 袋を手渡される。中を覗いてみたらサンドウィッチと野菜ジュースが入っていた。

「もらっていいの?」
「おう。今日は運動してないからそんなにお腹空かなくてさ。ちょっと入れるだけでも違うから空腹の足しにしな」
「さやぴぃ優しすぎるよー」

 こういうさり気ない優しさに女の子はぐっとくるのだ。
 ほんとに何で男じゃなかったんだろう。

「優しいか? 普通だって。逆にこれだけしかあげるものがなくて申し訳ないぐらいだし」
「十分だよー。こうやって気遣ってくれるだけでお腹いっぱいになるもん」
「……小嶋の見た目と中身のギャップは相変わらず健在だなぁ」
「ギャップ?」

 笑いながら言うから、一体何のことかと頭を捻る。

「高飛車な感じに見えんのに中身は素直っていうか」
「えー。そんな風に見える?」

 高飛車なんて初めて言われた。たまに、思ってたより人当たりいいねとか人懐こいんだねって言われることはあるけれど。

「見えてる見えてる。あと男女分け隔てなく接してるところとかも意外だし。いるじゃん、男の前だと媚びて性格変わるやつとか。小嶋はそういうのないから喋るようになってからはすげー好印象だったな」
「だって、勘違いされたらやだもん」

 あれは忘れもしない小学六年生の冬。
 仲良くしすぎたのか無意識に気を持たせていたのか。ある日の放課後、同じクラスの男の子から突然告白された。陽菜にはそんな気はなかったからもちろん断ったけど、その現場を彼のことが好きだったクラスメイトの女の子に目撃され、なぜか嫉妬された挙句に二学期が終わるまでクラス中の女の子からハブられたという苦い思い出がある。
 それを経験してからは、学校内の男に対してなるべく当たり障りのないように接することを心掛けていた。クラスメイトも含めて、男に関しては無闇やたらに仲良くしないようにも気をつけている。
 だから三年に上がって女クラになった時、実は正直ほっとしたのだ。

「勘違いなー。確かに見てる限りは普通に接してんのにしょっちゅう告白されてたしな。ちょっと甘えたりしたらそれこそ告白無双になりそうだ。ミスコンになんて出て軽々と二年連続優勝しちゃうぐらいだから余計なー」
「あれは陽菜の意志じゃないもん。勝手に推薦されて仕方なく出ただけで……」

 文化祭恒例のミスコン。自薦、他薦は問わずのコンテストになぜか一、二年時無理矢理参加させられていた。匿名だから誰が推薦したかも未だにわからない上に、辞退しづらい雰囲気が満載だったから渋々参加していたのだ。
 はなからやる気なんてないのに、ニコニコしているだけで優勝出来てしまうのだから男ってほんとに単純なんだなって思った。

「あれ? そいや今年は出ないの?」
「今年は辞退したー。実行委員が二年生だから気兼ねなくお断り出来たよ。品定めされてるみたいでずっと嫌だったんだよね」
「へぇ。普通なら三年連続って思いそうなのに、珍しいな」
「やだー。これ以上目立ちたくない」

 小学生の時のトラウマがなければまた違ってたかもしれないけど。女の怖さを知ってからはどうにも臆病になってしまう。

「モテる女はいいなぁ。一回ぐらいそういうこと言ってみたいわ」
「全然良くないし! 才加だってモテるじゃん。下級生の女の子に」

 バスケ部のキャプテンで生徒会の副会長で。男勝りなところもあるけど、ある意味下級生からの憧れの的のような気がする。移動教室の時なんか、黄色い声がよく上がっていたし。

「それとこれとは意味合いが全然違うだろ。そいや小嶋って彼氏いんの?」
「なにいきなり」

 唐突な質問はまるで自分のことには触れてくれるなと言っているようにも見える。

「別に。素朴な疑問ってやつ? 答えたくないなら無理には聞かないけど」
「隠すほどのことでもないし。こないだ別れたばっかだから今はいないよー」
「あ、別れちゃった後なのか……」

 申し訳ないことを聞いたみたいに才加は苦笑いを浮かべた。

「そんな顔しないでよー。陽菜が振ったから引きずったりしてるわけじゃないし。なんか比べちゃうんだよね、ゆうちゃんと」
「優子?」
「うん。なんだろ。包容力とか? 優子が男前すぎて彼氏が霞んで見えるというか」
「難儀だなぁ。優子みたいな完璧さを男に求めると理想が高すぎて相手見つかんなくなっちゃうぞ」
「だよねー。優子が男だったらよかったのにな」
「あいつが男だったら大変なことになるだろ。女の子とっかえひっかえで」
「……だよね」

 なんて的確。今でさえ可愛い子がいれば同級生だろうが下級生だろうが見境なしにセクハラしているから、男だったら間違いなく女泣かせになっていそうだ。同性だから笑って許されているようなものだと思う。

「あ、そうだ。今日さ、優子見かけた?」

 優子の話題で思い出したように才加は言う。

「一時間くらい前かな? 保健室で寝てたよ。見回りしなきゃーって言って職員室前で別れたけど」
「そっか。そろそろ交替の時間だから携帯に連絡してるんだけど全然出なくてさ。生徒会室にいんのかな」
「大変だねー生徒会も。二年生に任せたらいいのに」

 文化祭で問題が起きていないかの見回りから後夜祭の準備まで、うちの学校はすべて生徒会がまかなっている。高校生活最後の文化祭ぐらい楽しめばいいのに、見回りを担当するのは毎年三年の役目と決まっているらしい。

「文化祭は三年生徒会の最後の大仕事だからさ」
「あ、そっか。六月末に選挙だもんね。世代交代かー」
「次の生徒会との引き継ぎが終わったらお役御免ってとこかな。……って今からご飯食べに行くんだったよな。引き留めて悪かった」

 時間を気にするような才加につられて時計を見る。結構喋った気がするけど、まだ五分ぐらいしか経っていなかった。

「ううん、久々にさやぴぃと喋れたし。ご飯もありがとねー。よかったら後でうちの店来てよ。お礼したいし」

 何も食べれないと思ってたから思い掛けない差し入れはめっちゃありがたい。才加と出会えてほんとによかった。

「いやいや、そんなもんしかなくてごめん。お礼とかはいいけど、見回りついでにD組寄るわ」
「うん。待ってるね」

 じゃあまたあとで、と手をひらひら振りながら才加は颯爽と教室の方へと歩いて行く。格好いいなぁと思う反面、その後ろ姿を見ているとどうにもしっくりこなくて。
 ……格好だけ見たら女の子なんだけどなぁ。
 ピンクのフリル付衣装を着ているにも関わらず、その背中はやっぱりどうみても男らしかった。
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