テキスト(学パロ)
□探し人の行方
2ページ/3ページ
「なになにー、なんか盛り上がってんじゃんー」
赤らんだ顔を必死に隠そうとする秋元先輩の後ろから顔を覗かせたのは宮澤先輩だ。
「秋元先輩、顔なんか赤ないですか?」
あたしたちに向かって会釈したあと、様子のおかしい秋元先輩を見上げながら独特のイントネーションで言ったのは一年生の横山さん。二人一緒にいたのか、まったく同じ食べ物がそれぞれの両手に乗っている。
「赤くない。目の錯覚だろ」
「うわぁ、耳まで赤い。何やったんだよ才加」
「だ、だから何もしてないって!」
必死に隠そうと顔を背けたのが逆効果で、余計に宮澤先輩の興味をそそってしまった。耳が赤いなんて言われてさらに赤みを増す秋元先輩は本当にピュアだと思う。
「あやしー。たかみななんか知らない?」
「遠まわしにマネージャーのこと口説いてました!」
しれっと言い放つみなみに、あたしと先輩は顔を見合わせた。そういう意味で捉えてないよな? って今にも泣きそうな先輩の表情がそう告げているようにも見える。
どんだけ仕返ししたかったんだか――
子供じみたやり方に思わずため息が漏れた。
「あのさぁ、みな」
「うわ、とうとう言ったんだ」
あたしの言葉を遮るように宮澤先輩が口を開く。
「へ? とうとうってどういう」
「宮澤先輩、うちら完全にお邪魔してますよ。二人にしてあげた方がええんやないですか?」
自分で種を巻いておきながら戸惑っているみなみに被せてきたのは横山さんだ。小声で耳打ちするような感じだったけど、ともたちの耳にもしっかりと届いている。
「さ、さっきから聞いてれば、とうとうとかお邪魔とか勘違いしすぎだろ!?」
「だってさー、一日一回は絶対ともの話題出すじゃん。今日も話してくんなかった、とか、今日は目も合わなかった、とか。耳にタコが出来るぐらい聞いてると、ねぇ?」
初耳だった。わざと避けているとかいうわけではなく本当に話す機会がないだけなのに。そんなに気にされてたのかと思うと逆に申し訳なくなってしまう。
「先輩。高橋のこと言えないッスね……」
「だからっ。そういう意味じゃないんだってば!」
顔から火が出るってこういうことを言うのだろう。常に冷静沈着なのが秋元先輩のテンプレになってるから、こういう姿はすごく新鮮だ。
「そういう意味ってどういう意味?」
「いや、だから……そういう、不埒な感じではなくて。なんていうか……」
「なんていうか?」
愉しそうな宮澤先輩のしつこい追及に秋元先輩はしどろもどろになっている。ともとみなみのような関係だから容赦なくつっこんでいけるんだろうけど、さすがに見ていてかわいそうになってきた。でも助け舟を出そうにもなんて言えばいいのか言葉が出てこない。
「宮澤先輩、もうその辺で……」
場を納めるべく頭を捻っていると横山さんが控えめに声を上げた。
「えー。面白いとこなのに。ともは? さっきから黙ってるけど才加のことどう思ってんのー?」
「え……あたし、ですか?」
いきなり何を言い出すのかと思えば。
秋元先輩じゃ話にならないと思ってともに振ってきたのだろう。子供みたいに目を輝かせて、気が付いたら目前にまで距離を詰められていて。
どう答えたらいいのかわからなくて秋元先輩に視線を移すと、火種があたしに飛び火したからかさらに困惑した表情を浮かべていた。
「どうって、言われても……」
別に何とも、なんて言ってしまったら秋元先輩が落ち込むのは目に見えている。恋愛的な意味じゃなかったとしてもあたしのことを気に掛けてくれているようだったから言葉は選ばなきゃいけないけど、こういう時ってなんて答えたら当たり障りがないのだろう。男の人への接し方とはちょっと違う気がして、掛けるべき言葉が見つからない。
「いいよ、板野。はっきり言えよ。私、別に傷つかないから……」
か細い声で既に半泣きな状態になりながらそんなことを言われても、はいそうですか、なんて言えるわけがなくて。
みなみに目で助けを求めてもバツが悪そうに苦笑いしているだけで、同じように横山さんを見てもタイミング悪い時に現れてすみませんみたいな顔をして小さく頭を下げているだけだし。宮澤先輩に至ってはあたしが次に言う言葉を今か今かと待ち受けているような感じ。
……困った。完全に四面楚歌だ。どうしよう。