テキスト(連載)

□不器用ラバーズ/ゆうみな
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−たかみな視点−

「ねー、たかみなー。優子知らない?」

 ともが私のところへやってきたのは握手会も中盤に差し掛かった小休憩の時だった。きょろきょろと周りに視線を巡らせながら、いないよねぇとひとりごとのように呟いて、遠くを見たり近くのテーブルの下を覗きこんでみたり。
 いやいや、さすがにテーブルの下にはいないっしょ。小学生じゃあるまいし。そりゃまぁ、たまに小学生男子かと目を疑いたくなるような場面には遭遇するけども。

「みなみってば。ともの声届いてる?」
「あ、ごめ。優子探してんやっけ」

 なによりともが優子を探すというシチュエーションが珍しくて、ついぼんやりと眺めてしまった。
 握手会の真っ最中に探すぐらいだからよほど話したいことでもあるんだろうなぁなんて思っていると、

「行方不明なんだって」

 と、聞き捨てならない言葉が返ってきた。

「ゆ、くえ、ふめい?」

 あまりにもピンとこないその一言に鸚鵡返しすると、ともは困ったように眉尻を下げてため息をひとつ。

「控え室入ろうと思ったらスタッフの会話が聞こえちゃってさー。気になって探してみたんだけど見当たらないんだよね。とも、もう行かなきゃだし……」

 この言い方だと休憩時間中ずっと探していたんだろう。めんどくさがりに見えて実は仲間思いなとものギャップにはいつも胸を熱くさせられる。
 それにしても優子のやつ。スタッフが探すぐらいということは本当に行方不明だったりするんだろうか。
 握手会といえども仕事中に?
 突然行方を眩ますなんてありえんの?
 ……まぁ、実際にありえてしまっているわけで。だけど、普段の優子から考えたらまだちょっと信じられない状況だ。

 ミニライブの時はもちろんいたし、相も変わらず愉しそうに私のことを弄り倒して。紛いなりにも恋人だっていうのに、悪態よろしく客席含めたみんなの前で容赦のないめった斬り。私たちの関係は誰にも話していないから仕方がないとはいえ、それでもさすがにちょっと心が削れた。
 でもそれは少しでもイベントを盛り上げようという優子の心意気であって、普段からスベりキャラとして一目置かれている私が抜擢されるのも当たり前と言えば当たり前だった。
 心が削れたとか言いながらも最近では私にしか取れない笑いなんだとひっそり自負するようにまでなっているし。
 なんだかんだで優子選抜の常連だって思ったら心なしか嬉しさすら込み上げてくるし。
 ……どMか、私は。

 そのミニライブ終了後、控え室に捌けて二言三言の会話はしたけど、握手会開始と同時に各レーンに別れてしまったから、それ以降の優子がどんな様子だったかはまったく把握出来ていない。どの時点で居なくなったのかもわからないし、私だってそろそろ現場に戻らないといけないからスタッフに聞き込みしている時間も正直ないに等しい。
 だけど仕事には直向きな優子がいないなんて聞かされてしまったら――

「わかった。じゃあ、後は私が探してみる。教えてくれてありがとなー」

 心配で心配で身体が勝手に動いてしまう。
 これじゃまるでパブロフの犬だ。躾けられた覚えはないけど。

「どういたし――てか、なんでお礼言われてんの?」

 ぽつりと呟きながら訝しげに首を傾げるともを横切って、私はとりあえず走り出した。
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