漆黒のアネモネ

□漆黒のアネモネ〜過去編 第一章 穏やかな日常〜
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春の木漏れ日も過ぎ去り、鮮やかな日差しが降り注ぐ初夏。
大阪城の離れでは常のようにゴリゴリと薬草を煎じる音や書物を捲る微かな音が絶え間無く続いていた。
その音を生み出しているのはこの部屋の主であり、豊臣軍の薬師である緋咲神子斗だった。
彼は普段通りの黒に朱染めの着流し姿で作業に没頭していた。
緻密な作業をこなすその繊細な指先は薬草から肌を守る為に黒く染めた包帯で覆われている。
他の露出した箇所も口や目元などを残して隙間なく包帯が巻かれていた。
鮮やかな朱色の瞳は真剣な目で煎じている薬と書物を行き来し、手と目以外は身動ぎすらしていない。
そんな静かな空間の中に遠くから段々と近づいてくる騒音があった。



『・・・・・・。』



神子斗は数少ない露出している箇所である口元を微かに笑みの形に変えた。
優れた五感を持つ彼には例え遠くからでも誰が出す音なのか分かっていた。
もしどうでもいい人物ならそのまま作業を続行していたところだが、相手は彼にとって何者にも変えがたい大切な存在だ。
神子斗は作業をきりの良い所で止める為の準備をし始めた。
ぱぱっと手早く準備をし、作業を中断した調度そのタイミングでドスドスという足音が部屋の前で止まる。
そして、バンッと大きな音を立てて外と中を隔てる襖が開かれた。



「神子斗!!」

『おはよう、三成。』




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