Infinite・S・Destiny〜怒れる瞳〜

□PHASE06 悪夢再び
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 一夏と箒は揃って管制室にて監督としていた千冬と真耶とともにモニターに映る試合を見ていた。

 そこに映っている赤とダークグレーの機体は自分たちが使うようなISとは違う、まさに人型に近く、かなり露出の少ない全身装甲。

 確かにそれだけ見れば、十分驚かされるし、ISとの戦闘も十分すぎるくらいである。

 だが、二人にとってそれ以上に、飛鳥が代表候補生であるセシリアを破ったことに驚きを隠せなかった。いくら最初はセシリアが気を抜いていたとはいえ、途中からはしっかりと代表候補生としての力を発揮していたと思う。はっきり言って自分たちでは勝てないだろう。

 しかし、流れは確実に飛鳥に会った。途中傾きかけていた流れもすぐに戻し、心象ではあったが、あの代表候補生を破ったことは賞賛に値するものであった。次はいよいよ一夏の試合であった。

「これは・・・」
「ハァ、やりすぎだな」

 真耶と千冬がそろって小さなため息を吐いていた。一体どうしたのだろうかと耳をそばだてていると、どうやらセシリアの専用機であるブルーティアーズが先ほどの戦闘で大きく破損してしまい、補給だけでは到底試合にならないという状態だという。

 確かに一夏たちの目から見ても、あれはISの初心者の戦いではなくまさしく真剣勝負であった。そこまでやるかと思うところもあるが、見ていたときにぶつかり合う二人にはとてもそうは言えなかった。

「それにオルコットさんも気を失ってしまっていますからね」
「そっとしておいてやれ。無理をさせて、機体と操縦者を壊したとなったらイギリス本国から何を言われるかわからないからな」
「そ、そうですね。なら、また大幅に変更ですかね」
「そうなるだろうなっと・・・ようやく来たのか」
「あ、そうですね。ようやく来ました!!織斑君の専用IS」
「へ??」
「ピットに搬入してあります。時間ありません!!急いで」
「取りあえず織斑は事が事だからぶっつけ本番で物にしなければならん」
 
そう言いながら歩く千冬。そしてピットを開けた一夏の前に現れたのは真っ白なISだった。

「はい!!これが織斑君の専用IS『白式』です」

 それを見た瞬間一夏は思わず目を奪われてしまった。それはまっさらな白であった。何者をも浄化する白。そして、一夏は、直ぐに"白式"を起動し纏った。

「背中を預けるようにしろ・・・」

 意地を出す千冬の言葉を聞きながら一夏は白式に自身の身を預ける。

「あとはシステムが最適化してくれる」

そして千冬が最適化前の白式を纏った姿を眺めて確かめるように見ている。

「ハイパーセンサーは問題なく動いているな・・・一夏、気分は悪くないか??」
「大丈夫、千冬姉いける」

 やはり姉なのだ。弟に何かがあっては困る。だからこそ、自分ができる最低限のことはしておこうと思っての行動なのだろう。一夏も千冬の言葉に答え、そしてピッドのカタパルトに乗る。そして一度箒のほうを見る。

「それじゃあ、箒、行ってくる」
「・・・ああ、勝ってこい」

 そう言って一夏はピットから飛び上がり、アリーナで待っていたセシリアの元まで飛んでいく。見ているしかできない千冬たちは、管制室のモニターからその戦いを観戦するのであった。


 飛鳥は現在破損した部分と失った武装の補充をしていた。それほど大きな破損部分はなく、予備のライフルはあったので後は必要なエネルギーを補充するくらいであった。

 手を見れば震えている。それは勝利の歓喜であった。初めてISに買ったときのことをもいだ下。あの時は本当に無我夢中であったためにほとんど覚えていないが、今だから分かる。これはようやく自分が一歩前に進めた証なのだと・・・。

「次はアイツか・・・」

 織斑一夏。女性にしか扱えないはずのIS(インフィニット・ストラトス)を男で始めて起動させてしまったという謎の人物。姉の織斑千冬は第一回モンド・グロッソ大会で優勝。公式戦では無敗の最強を誇る。そんな彼女を姉にも疲れがどこまでISを知っていたかというとこの入学してからの授業の理解度を見てかなり低いと見ていいだろう。

 とはいえ彼はどうやら篠ノ之箒と剣道をしていることと、幼馴染の力を借りて知った経歴からして剣道を習い、それなりの実力はあったらしい。過去形なのは彼の中学での動向を知れば一目瞭然であった。

 この一週間何をしていたかというと剣道だけというようにISについては全く訓練している様子はなかった。馬鹿にしているつもりはないのだろう。別段向こうの責任であるために気にする気もない。ただ、倒すだけ。そう、それだけだった。

 気を抜いてしまったらセシリのように足元をすくわれる。もともと飛鳥には気を抜くなどということは微塵もない。いつだって飛鳥は地面にはいつくばってでも上を目指してきたのだから、それ以外の歩み方を知らない。

「システム、起動」
『General Unilateral Neuro―Link Dispersive Autonomic Maneuver―――Synthesis Syste』

 一瞬の光に包まれ、再び完全に修復されたヴェスティージを纏った飛鳥がそこにいた。右手にライフル、左腕に巨大シールドを装備し、カタパルトデッキに足を固定する。

 今日二度目の発進。きっと真剣な表情を射出口に向ける。信号が赤から青へと変わる。発進可能な合図だ。

「紅月飛鳥、ヴェスティージ。行きます!!」

 誰に対して言うわけでもなく、飛鳥は飛び出していく。そして、向こうのピットから飛び出してきたのは白だった。白、白、白・・・。白い翼の形をしたスラスター、白い四肢、その姿はまるで騎士。そして、その操縦をしている人物は織斑一夏・・・。

『これより、紅月飛鳥対織斑一夏の試合を始める』

 アナウンスで試合開始が伝えられる。飛鳥はただ呆然と目を見開いた状態で目の前の一夏を見ている。一夏はおそらく予め武器を確認しておいたのだろう。すでにその手には刀剣が握られており、こちらに向かって飛び出してきた。

「うおおおぉぉぉ!!」

 上段から切り下ろすようにして振り下ろされる刀剣。それをはっと気づいて横にからだをずらしてかわす。一夏はいきなりのトップスピードを扱いきれなかったのか、かわされて前につんのめる。

「おわっととと!!」

 それを管制室で見ていた箒ははらはらと見ている。自分が鍛えなおすといっていながら一緒にいられることがあまりにもうれしいことと、あまりにも一夏が弱くなっていたために剣道だけに構っていたので、一夏のISの操縦が未熟なのは否めない。その原因が自分にもあるので、申し訳なさでいっぱいだった。

「な、なんだか織斑くんの操縦、見ていてハラハラしますね」
「一週間何をしていたのか・・・とは言わずともわかるがな」

 あえて離れたところにいる箒に聞こえるように行っているのかは分からないが、それを聞いてシュンとなってしまう箒。ただここにいる自分にはただ一夏が勝つことを祈るしかできないのだ。

 一夏に対して無思考のまま飛鳥はライフルからビームを放ち、白式の肩の装甲を打ち抜く。爆発し、肩の装甲が半分吹き飛ぶ。

「く、シールドエネルギーが」

 一撃でかなりもって行かれた白式のシールドエネルギー。ライフルによる射撃だけではなく。肩の装甲を打ち抜いたときに起きた爆発による余波が体を襲ったためであった。

 再び正面に構える刀剣。ゆっくりと対面する飛鳥は刀剣を構える一夏をただにらみつけている。初めは呆然としてしまった。なぜならいきなり飛び抱いてきて、自分の目の前に現れたのがあの時飛鳥の家族と幸せを奪って行ったISに似ていたからだ。

 そうしてしばらく呆然としてしまったが、はっと現実に思考を戻し、冷静に落ち着いたその瞬間に沸いてきたのはその冷静さをはるかに上回るようなただ怒りであった。何故こんなところにいるのかと、何故こんなところにそれがあるのかと。

 飛鳥は次々とライフルを打ち込んでいく。一夏も回避しようとして白式の機体を動かしていくが、全く回避できずに次々と装甲を抉り取られていく。次々とモニターに映し出されるエネルギーの残量を見て一夏は焦りの色が色濃く見えてくる。だが、その瞳の中の負けないという炎は更に激しく燃える。

 飛鳥は一夏が突っ込んできて横一線に振りぬいてきた刀剣を大型のシールドで受け止め、ライフルの銃口で殴る。がんというものすごい衝撃が一夏の頭部を襲う。一瞬視界が真っ白になった。しかし、観客の悲鳴を聞いて、はっと意識を取り戻した一夏は、自らが地面に向かって落下していることを知り、慌てて体勢を立て直し、何歩かつんのめったが無事に着地を終える。

「一夏!!」
「きゃあ!!」
「む!!」

 飛鳥が一夏の側頭部をライフルで渾身の力で殴り飛ばしたのを見て思わず身を乗り出してしまう。普通ならば頭が吹き飛んでもおかしくない力であったために、思わず真耶は手で顔を覆ってしまった。さすがの千冬もそれを見て立ち上がらざるを得なかった。

「つぅ・・・、まさかライフルを鈍器に使ってくるだなんて・・・」

 一夏はまさかのライフルの用途に戸惑いながらも殴られた側頭部を撫でる。まだずきずきと傷むが、そこまでというわけではないので、再び刀剣を構えて上空へと飛ぶ。

 再び飛鳥は上空へと上ってくる一夏に対して打ち込んでいく。何とか回避したいという必死さは伝わってくるが、まったく交わすことができず、よくてかする程度、次々と白い騎士の装甲がぼろぼろになっていく。

 一夏も負けじと刀剣を振るう。しかし、シールドにふさがれ、何閃もの剣閃はまったく飛鳥に、ヴェスティージに傷をつけられない。次々と打ち込まれるライフルを何とか刀剣で弾こうとするも、衝撃で後方に飛ばされる。

 その後方に飛んだ一夏に対してすばやくシールドに付属しているワイヤーアンカーを射出し一夏の右腕を絡め取る。しまったというように一夏はそのつかまれた腕を見るが、力を抜いてしまったその瞬間に、飛鳥はそれを見逃さず、スラスターを全開に、ハンマー投げの要領でアリーナに張られているシールドに向かって一夏を投げ飛ばす。

「があああ!!」

 鋼鉄と同等であろうシールドに叩く付けられた一夏はいくらIS装甲だからといって衝撃はすさまじいものだろう。背中から叩きつけられ、強制的にはいから酸素を吐き出させられる。

「千冬さん!!あれはやりすぎだ。今すぐやめさせるべきです」

 箒が飛鳥の一夏に対する攻撃を見て叫ぶ。ぼろぼろになっていく弟の一夏を見て千冬だって教師という立場が泣ければ今すぐにでも向かいたいのである。確かに戦いにおいては回りのフィールドを使うことも作戦の内であり、飛鳥の戦い方は理にかなっている。だが、ここまで相手を傷つける必要はないのではないかと思った。

 荒々しさだけが感じられ、あまつさえ怒り、更にはそれを昇華させた感情である憎悪、その上を行く殺気さえも感じられ、攻撃の一撃一撃に込められている。彼女には分からなかった、どうしてそこまでするのかが。そして、箒にあの時突っかかっていった・・・自身の親友である天災に対してかなり敏感に反応していた。

 MSというISと似て非なるマルチスーツを持ってIS学園に来たのも何か大きな理由があるのかもしれない。更に裏ではあの対暗部のための暗部とのつながりがあるというのだから、只者ではないと思った。

 この情報を伝えてくれた天災には今回ばかりは感謝せざるを得ない。いつもは心労ばかりを送りつけてくるというのにとため息が出る。とはいえそれ以上の情報はさすがに引き出せなかったらしい。
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