Infinite・S・Destiny〜怒れる瞳〜

□PHASE04 ヴェスティージ
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IS学園入学二日目、暖かな光が窓際のベッドを使用押している飛鳥の顔にダイレクトに降りそそぐ。どうやらカーテンの隙間からあふれ出していたらしく。とはいえ軍事学校の中等部に行っていた頃と変わらない時間であるために目覚めはそれほど悪くない。むしろ普通であった。

 ゆっくりと日差しが目に差し込んできて、ゆっくりとあけられる赤い瞳。しばらくぼんやりと真っ白な天井を眺めていた。そして、不意に自分の体が動かないことに気づいた。

 いやこれは動かないというよりも動けないといったほうがいいのだろうか。何かがからだにのしかかっており、不意に何か柔らかく、暖かい何かが自分のからだに触れているのを感じ取った。

 その柔らかいものが何なのか。理解できないにもかかわらず、体が熱くなるのを禁じえない。慌てて顔を動かし隣の二つあるベッドに寝ているだろう二人を見る。変わらずすやすやと眠っている二人の姿があった。

 ならどうして飛鳥の使っている布団が異様に盛り上がっているのだろうか。恐る恐るであるがゆっくりと布団をめくり上げる。

「あは♪♪」
「な・・・」

 そこにいたのは簪と同じ、水色の綺麗な髪をした少女。飛鳥よりも一つ学年が上の幼馴染である現更識家当主である更識楯無その人だった。

「あ、あんた一体何を・・・」
「おねーさんも人肌恋しいときがあるのよ〜」
「だ、だからって・・・」

 何もこんなことをする必要もないだろうと言いたかったが、言ったそこで言いくるめられるのでやめておいた。

 それにしても思わず目が一点を向いてしまうのは飛鳥も男だから仕方がない。頬に赤みが差している。にゅっと伸びてきた捕捉、雪のように白い手がその頬を指でつつく。

「や、やめろ・・・」
「あははは、アッくん照れてるね♪」

 顔をのけぞらそうにも体が動かせないために更につつかれる。ちらちらと見える豊かな谷間が視線に入るたびに更に顔が熱くなるのを感じる。それを見逃すような彼女ではない。むしろ見せているといわんばかりの薄着である。

 ようやく解放され、起き上がる飛鳥はベッドの端に座る。着崩れた服装を直す。その横に布団をかぶった楯無が座っている。

「で・・・??」

 ジト目で隣にいる彼女を見る。きょとんとした瞳で飛鳥を見ている楯無を見て尋ねる。

「あんたは何をしにここに来たんだよ・・・」
「む〜。また昔のように『お姉ちゃん』って呼んでくれないのかな〜??」
「な///」

 自身の恥ずかしい過去。純粋無垢な子どもであったとき、それは素直に近所であった彼女との交流が当然にあった。家柄からなかなか近づきがたい雰囲気があったがふとしたきっかけで遊ぶことになったのだ。

 今も通じて楯無が飛鳥のことをアッくんと呼んでいるように、小さい頃は今こそ気恥ずかしく『あんた』としか呼べない飛鳥も『お姉ちゃん』と呼んで慕っていた。

「無理だ・・・」
「え〜」
「無理なものは無理だ。恥ずかしい」
「私はむしろうれしいのだけどね〜」

 そんなことを言っている二人であるが昔のように楽しく話をしていたときのようにスムーズに口が動いていた。飛鳥が家族を失ってから、更識家にお世話になったのは2年ほど。そしてすぐに普通中学校ではなく短期の軍事学校中等部に編入していった。その二年の間にも飛鳥は彼女たちと混じって武道などを通じて自らを鍛えた。

 はっきり言って彼女たちに手も脚も出ずにやられる毎日であった。情けなく、人知れず涙したこともある。それでも腐らなかったことの大きな割合を占めていたのは篠ノ之束及び白騎士への怨みであった。

 ふとそれを思い出し、思わず握りこぶしに力が入る。それをそっと包み込む楯無の柔らかな手。何も言わないが、あの時と同じように、無理はしないでほしいと言っているような気がした。

 ちらりと横を見るとすぐ近くに座り変えていた彼女の横顔が見える。そこにはから買うような様子はなく、ただ純粋に嘗てのように幼馴染、姉として心配している楯無がいた。

「あんまり無理しないでほしいな〜。何かあったらおねーさん悲しいから」

 体が密着し、お互いの鼓動が感じられる。どきどきとした心臓の鼓動が知られていると思うと、落ち着くばかりか更に加速する。ふわっと香ってくる女性特有の甘い香り。それが鼻腔をくすぐり、もっと、もっとという欲を掻きたてる。飛鳥にとっては使ったことはあるわけがないが、まるで麻薬のようなものであった。

「わ、わ、分かった。分かったから///」
「な〜に??どうしてそんなに焦ってるのかな??」

 すると変わり身の早い彼女はすぐに悪戯っ娘のような笑みを浮かべてくる。助けを予防にも二人はまだ夢の世界に旅立っているようで無理やり起こすのはかわいそうだ。時間はまだ早いというのにどうして彼女は来たのだろうかという疑問もあったが今はそれどころではないのだ。

「だから、離れろ!!」
「や〜だ♪」

 離れるどころか更に体を密着させる。小さい頃ならお互いに姉弟のような感じで、友達感覚でいられたかもしれない。しかし、お互いにもうそういう年齢ではない。男は女を、またその逆に女は男を意識する。後ずさる飛鳥を追いかけるようにして這うようにして近づく。すらりと布団が床に滑り落ち、薄い服装から白い肌が見える。

 がりがりと削られていく理性。今まで彼女を女として見なかったかどうかと言われれば、魅力的な女の子だと思う。だが、これはまずい。非常にまずかった。理性が警報を発している。顔が赤い、心臓の鼓動が早い、緊張で口の中が乾いていく。

 誰か助けてくれ。そう心の中で叫んでいた。いよいよ理性という防波堤が瓦解しそうになったとき。突然部屋の扉が勢い良く開かれた。思わず二人はその方向へと視線を向ける。

 そこには起きたばかりですぐに来たのだろう、まだ寝巻き姿の女子生徒がいた。いつもは三つ編みにしている長髪そのままながし、綺麗な顔立ち、そして、眼鏡を掛けた彼女はずんずんと部屋に入ってきて、飛鳥と楯無の前に立つ。

「あははは・・・」
「お、おはよう・・・」
「「虚」」」

 そこに現れたのは飛鳥よりも2つ年上であり幼馴染、隣にいる楯無にとっては自身に仕えている人物であった。そんな虚は目の前にいる二人を見て小さくため息をついている。

「おはようございます・・・。取りあえずお嬢様」
「な、何かしら虚・・・」

 一応の挨拶に対する返事を済ませた虚はすぐに飛鳥の隣にいる楯無に視線を向ける。苦笑いで答える楯無。するとグイッと腕をつかまれ立ち上がらされる。

「にゃ!?」

 まるで首根っこをつままれた猫のような声をあげて立たされる楯無。そのまま腕を引っ張る形でずるずると連れて行かれる。助けてなどとまるで連れてかれるヒロインのように演じているが、そのときの飛鳥にとってはむしろ虚はヒーローのように見えた。

「全くお嬢様は・・・。目が覚めてみてみたらベッドがものけの空とは・・・」
「エヘへへ、やっぱり虚には敵わないな〜」

 まだやや肌寒いという朝なので虚が持ってきた上着を着ている楯無。どうやら彼女たちは同室らしい。まあ、二人の関係を考えれば当然なのであるが。この部屋に最初にいた簪と本音もまた同じような関係である。

「すみません、飛鳥くん。こんな朝早くからお嬢様が迷惑をかけてしまい」
「え、いえ。あ、あと助かりました」

 専属のメイドであるために謝罪を入れている。飛鳥にしてみれば彼女が来なかったら、これから何をされていたかと思うとむしろ感謝しても仕切れない。内心かなり緊張していたし、雰囲気に飲み込まれるところでもあったのは否めない。

「も〜。虚が来なかったらもう少しで楽しいことができたのに」
「お嬢様??」
「ひぃ」

 口を尖らせて言う楯無であるが、虚が静かに、それでも怖い笑顔で言うために思わず小さく悲鳴をあげてしまう。

「取りあえず戻りましょう、お嬢様。これ以上の長居はお互いに悪いです」
「そうね〜。残念だけど、これ以上いるとここの寮長さんに怒られちゃうわ」

 どうやらこの寮を管理している寮長は一夏の姉である織斑千冬らしい。確かに彼女に見つかったりしたら大変なことになるということで、虚が楯無のことを連れ戻しにきたのは賢明な判断だったかもしれない。

「何か助けがほしかったらいつでもおねーさんの所に来るのよ。いつでも力になるから」
「ああ、分かった」
「あと、クラス代表決定戦、頑張ってね」
「え、何で知って・・・」
「うふふふ、おねーさんに隠し事は・・・」
「会長権限で知ったのですよ」
「何で真実を言っちゃうのよー!!」
「それっていいのかよ・・・」

 最後は頼りになる姉としての言葉を残して行きたかったのだろうが、最後の最後で彼女の行動力のすさまじさを知らせることになってしまったのだった。取りあえず、軍学校での生活が見に染み付いてしまっていたので早朝のトレーニングをするべく、着替えを済ませ外へと向かうのだった・・・。
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