Infinite・S・Destiny〜怒れる瞳〜

□PHASE03 同居人は幼馴染
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「終わった・・・」

 腕を伸ばして伸びをするのは飛鳥である。ようやく一日が終わったことをあらわすように、その体からばきばきっというこりにこった音がした。

「身体的より、精神的にきつかったな」
「ああ、それは言えてる・・・」

 飛鳥はそう言いながらも帰りの支度をいている。それに対しては一夏も同感だと言う。気が付けば、教室には飛鳥と一夏しかいなかった。教室の外にはまだ二人のことを見ようという女子生徒達がいたが・・・。

 まさかここまで初日からバタバタするようなことになるとは思っても見なかった。飛鳥は近くのホテルから、一夏は自宅からそれぞれ通うことになっている。そろそろ帰ろうかということで、二人は立ち上がり、鞄を手に掴んだ。するとそれと同時に教室の扉が開けられた。

「ああよかった、まだいました」

 そこにいたのは担任の千冬と真耶であった。扉を開けたのは先頭で入ってきた真耶であり、相変わらずのぽわぽわとしたスマイルである。

「二人の部屋割が決まりましたよ」

 その言葉に二人はえっという驚いた表情になる。

 一応IS学園は全寮制である。それはIS学園が国など関係なく中立なものであるためにさまざまな思惑と、一元管理できる手軽さによるための全寮制であった。

今までは女子しかいなかったためにその管理は簡単であったが、今年は違う。飛鳥というISに対抗しうるかもしれないMSというものを操縦するイレギュラーと一夏という男の操縦者というイレギュラーがいるからであった。

そうなると女子とは微妙に違った設備や風紀、道徳などから、一気に管理が大変になる。それ等が整うのに約一週間はかかると言われ、それまで二人は例外として自宅通学を言い渡されていた。

「え??俺は確か一週間は自宅通学って言われてたんですけど??」

 一夏がそう言われた、聞き返す。すると千冬があきれたように言ってくる。

「お前は自分の立場を理解しているか??」

その言葉に一夏が言う。

「つまり、俺達に危険が及ばないようにってことか??」
「だろうな。俺の場合はMSの強奪、お前に関してはお前の体自身。ふらふらと外を出歩いていたら誘拐されてモルモット行きだな」
「紅月、もう少しオブラートにつつんだ言い方はないのか??」
「でも、事実でしょ??」

 取りあえず部屋割りがどうなっているのかを聞く。基本的に男同士になるはずであるが、真耶から飛び出した言葉はそれぞれ別々だということだった。一夏に『1025』、飛鳥に『1034』と書かれた鍵と、寮生活についての注意事項が書かれた紙を手渡した。

「お前達の荷物は必要最低限な物だけ・・・代えの衣服と携帯の充電器で十分だろう、すでに部屋に送っている。残りの必要な物は休日取りに帰るんだな」

確かにそうだが、男としての生活必需品がないことは二人にとっては少しさびしいものであった。

それからして、二人は教室を出て部屋を探していた。

「・・・1024、1025と。ここだ」

飛鳥と一夏は鞄を肩から提げて部屋を探していた。取りあえず番号が若い一夏の部屋が先に見つかった。とりあえず、夕食に行く前に部屋の中にある少ない荷物を整理するということになった二人はそれぞれの部屋へと入っていく。飛鳥も自身の部屋である1034号室を目指す。

取りあえず中に誰かがいるかどうかも分からない。ノックを一応してみた。すると中からなんだか聞いたことのある声色でどうぞ〜と言うのが聞こえた。取りあえずドアノブを引き、中へと入る。

 そして最初に眼に入ったのは・・・。

「ピカ○○ウ・・・??」
「ん??アーちゃんだ〜」
「え??なんで・・・??」

 そこにいたのは黄色の狐の寝巻きをした同じクラスであり、隣に座っている幼馴染の布仏本音であり、その横にあるベッドにラフな格好で寝そべっていたのは4組にいる同じく幼馴染である更識簪の姿があった。

 何故か無理やりに取り付けられたようなベッドがあり、その上には二つほどの中くらいのダンボールがガムテープにて閉じられた状態で置かれていた。

 そんなことよりもどうして彼女たちがここにいるのか。飛鳥にとってはそれが大きな疑問であった。

「な、何でお前たちがここに・・・??」
「え〜、だってここが私たちの寝泊りする部屋だから〜??」
「何で疑問系??」

 思わず尋ねてしまった飛鳥であるが、本音は何故か疑問系の語尾で答える。思わずつっこんでしまうのはいたし方がない。

 そして、今度は本音のとなり、廊下側のベッドに寝そべってこちらを見ていた簪を見る。女子同士の部屋だからか、かなり身軽でラフな格好である。最初こそ二人の幼馴染が自身がこれから寝泊りするはずの部屋にいたために内心驚いていたのでほとんど気づいていなかったが、落ち着いた今もう一度見るとちらちらと下着のようなものが見える。

「///」

 思わずそこに眼を向けてしまい、すぐさま眼をそらす。

「あ!!」

 簪自身も自分がいマドンナ服装でいて、そこに立っている飛鳥の性別が自分たちとは違う男性だということにようやく気づき、慌てて足元にあった薄い掛け布団でからだを隠す。

「・・・」
「な、なんだよ・・・」

 胸の高さまで掛け布団を持ってきて、眼鏡の奥の瞳が飛鳥をにらみつけていた。怒っているというよりも、恥ずかしいというのだろう。とは言え鈍感な飛鳥が気づくはずもなく。怒っているのだろうと思いつつも、思わず強めに言い返してしまう。

「見た・・・??」
「・・・」

 何をと聞き返すほど、飛鳥は馬鹿ではない。眼が泳いでいることから、簪は見たのだと確信する。

 当の飛鳥はこれ以上突っ立っていても、簪から向けられる視線に耐えられる自身がなかったので話題を戻すことにする。

「え、えっとなんだ??お前らもここで寝泊りするんだな??」
「そうだよ〜」
「うん・・・」

 と言う事はと、飛鳥はただ一つの答えに帰結した。ここにいるのは男子である自分ひとりと女子二人の本音と簪。ベッドの数は二人が座っているのとダンボールがぽつねんと置かれているのを合わせると三つ。なら残っているベッドは誰が使うのか。当然のことながら突っ立っている飛鳥しかない。

「てことは、お前らと相部屋ってこと・・・??」
「そういうこと〜。また一緒だね〜」
「そうだね」

 相変わらずのほほんとしたマイペースな口調で言う本音と、淡々とクールに話してくる簪。とは言え彼女たちも内心気恥ずかしさを感じつつも、小さい頃は良く並んで寝たことを思い出し、懐かしさとうれしさを感じていた。

 取りあえず荷物の整理をしようとベッドに近づく。そこには発送者がかかれており、書かれていたのは『更識楯無』。おそらく家に置かれているのを従者に頼んで自分の名を使って遅らせたのだろう。素直にここにいない幼馴染に対して感謝した。

「それにしても、すごいな・・・」

 とりあえず部屋の中に入ってそれを見た率直な感想がそれだった。まるで豪華な高級ホテルなのではないかと思えるような造りであった。

衣服などが入ったしたダンボールが、ありえないくらい、その空間に不釣合いな存在感を放っていた。

 ベッドに腰掛けてみるとものすごい弾力に驚いた。子どもであったらここを飛び跳ねて遊ぶだろう。とりあえずダンボールの中の着替えや、勉強道具を整理しようと思い、立ち上がる。

豪華な部屋であるために、色々と整備がなされている。本棚やら勉強に使うテーブルやらは当然のこと、最新式のテレビや、更にはパソコンなども置かれているなどどこまで金をつぎ込んでいるのだと思うくらいであった。

それにしても男にとっての生活必需品がどうして入っているのか。こっそりと買ってきては見つからないようにとかくしていたにもかかわらずダンボールの中に入っていた。家には自分一人しか住んでいないために絶対にありえないのにと思い、少し引きつった笑みしかできない。

さすがにそれを出すわけにも行かず、後ろでは小首を傾げている本音と黙ってこちらに読んでいたものから目を離し、ちらりちらりと視線を向けている簪がいる。

いくらなんでも異性に対して、さすがにこれの類を見せるのは気恥ずかしさが勝る。仕方ないとダンボールに封印したままベッドの下へと滑り込ませた。内心幼馴染・・・この学校では学年が一つ違っているが、彼女に対してやってくれたなという思いを向けていた。

それからしばらくして、三人はそれぞれのベッドの上に座って話をしていた。話題は飛鳥が相手の代表候補生に喧嘩をふっかけたということだ。飛鳥の席の隣にいる本音がその話題を出したのだ。

「何してるの・・・」
「ぐ・・・」

 あきれたように言ってくる簪。その言葉と細められた目で見られ、思わずどもってしまう。楯無簪は現在の日本代表の候補生としての立場にいる。そんために他の国の代表候補生についてのことも知らないというわけではなかった。そのためにセシリアのことも全く知らないというわけではなかった。

 第三世代のIS『ブルーティアーズ』のイメージインターフェイスとしての特徴的なのは青い涙と形容されるようにビットによるオールレンジの攻撃であった。はっきり言って一対多において真価を発揮するような後方支援型のISである。一応の知識で知っていたためにふと思い出していた。

「代表候補生に喧嘩を振るって・・・」
「し、仕方ないだろ。アイツ、むかついたから」

 年は関係なく、昔から兄妹同然に過ごしてきたために普通にタメ口である。ここまで簪が話しに乗っかってくるとは珍しいと思った。もともと口数が少ないのだ。とは言え少しずつ代わろうとしているのかと思うとうれしく思えた。

「アーちゃんはセシリーに勝てる??」
「せ、セシリー・・・??」

 おそらくセシリアだからセシリーといったのだろう。彼女の言うニックネームは時々良く分からないものがある。

「勝てる勝てないじゃなくて、勝つ・・・だな。あそこまで馬鹿にされて、悔しくないわけがない」

 彼女がISを操縦できるということで相手を・・・主に男を見下すのは今に始まったわけではない。ISを使えるわけじゃないのに、理不尽な要求をされたことだってある。だからと言って、自分の親を馬鹿にされて我慢できるわけがなかった。すでにこの世にいない使者を愚弄されたのだ。あそこで言葉より先に手が出なかったのは今までの飛鳥からすれば賞賛されるべきことなのかもしれない。

 それにMSがただ父だけ残したものであるわけではなかった。すでにISが世界に広がり10年くらいが経っていた。家柄のこともあってかISの技術もこちらに流れていた。更に幼馴染の姉妹が揃って国の代表やら代表候補生やらになっている。彼女たちの助力もあり、このIS学園に入ることができたのだ。父親だけではなく、彼女たちの協力すらも否定されたのだ。飛鳥がキレルのは当然の結果であった。

「俺のことだったらここに来る前だって普通に言われていたさ。だけど、父さんやお前たちのことを馬鹿にされたら我慢できるわけない・・・」

 また思い出しただけに腸が煮えくる思いだった。あそこまで自分の大切な存在を馬鹿にされたのは初めてだった。だからこそ決闘を受け入れた。代表候補生とか、そういう立場というのは無視して、ただ紅月飛鳥という一人の人間としてそれを受け入れた。

「それにおりむーも一緒だよね〜」
「おりむー??」
「織斑一夏・・・。あの世界で始めての男の操縦者のやつだよ」

 本音のその独特なニックネームの人物が誰なのか聞いてきた簪。アス海外にも無謀にも代表候補生に挑む馬鹿がいたのかと思ったのだろう。飛鳥はそのニュアンスから一夏のことだと分かった。

「・・・」

 簪はその一夏の名前が出た瞬間、表情がこわばる。それに気づいていたのは本音くらいだろうか。またぶり返していた怒りで周りを見ていなかった飛鳥がそれに気づくことは不可能だ。

「アーちゃんは今日、おりむーと喋ってたけど〜。どうだった〜??」

 本音が聞いてくる。確かに二時限目が終わってから同じ男として交流しておいても良いだろうということで話していたが・・・。

「馬鹿だな」

 二人は揃って??を頭に浮かべていた。とはいえそう言いたいという理由は同じクラスである本音も分からないわけではないだろう。

 色々あったがあれはその言葉で尽きるだろう。確かにお人よしなところもあり、それは評価に入るかもしれない。だが、総合して飛鳥から言えるのはその一言だった。

 そこでようやく冷静にものを見れるまでに落ち着いていた。ふと先ほどよりも表情が良くない簪を見てようやく察する。彼女の胸のうちに持っている感情やそれに関係することを考えれば分かることだった。

 思わずこの話をするのはまずかったかと思う。完全に失念していた。

「う・・・、まあ。なんだ。1週間後の決定戦・・・、勝つしかない」

 そう呟いて見つめる先にある紅いブレスレットの待機状態であるヴェスティージが照明の光で怪しく輝いていた・・・。
 

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