Infinite・S・Destiny〜怒れる瞳〜

□PHASE02 気に入らない
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IS学園は入学式の日でも授業があり、今は二時間目の真っ最中であった。

「・・・であるからして、ISの基本的な運用は現時点で国家の認証が必要であり、枠内を逸脱したIS運用をした場合は、刑法によって罰せられ・・・」

 教壇に立って、教科書を片手にすらすらとそれを読んでいく真耶。教室内でも静かに授業を聞いている。それは新学期であり、皆が気を引き締めているからであることと共に、それ以上に後ろに千冬が出席簿を片手に腕組みをして立っているからであった。

さすがにこの状況で不真面目にしていたらどんなことをされるか分かったものではない。そんな中、飛鳥はというと、同じく教科書とノートを広げて、必要なところは書き取って、マーカーで印をつけるなど、いたって普通に授業についていく。

一応事前に貰っていた参考書を頭に叩き込んでいるために、基礎的な部分は理解できる、他の女子生徒たちはというと、このような範囲は一応中学までで習っているのだろうと思う。

中学でもISの授業を取り入れているところがあり、それは大抵女子中学であるのだが・・・。それはそうと、もう一人の男である一夏の事をちらりと見てみると、教科書と真耶を交互に見ては、ぱらぱらと教科書を行ったり来たりさせている。

―――何やってるんだ??アイツ・・・。

 飛鳥はそんなはたから見れば、授業の内容が分からないと、ついていけていない一夏の事を見て退屈そうに見ていた。まさに、焦りで顔が真っ青になっている様子が見えた。

「織斑くん、何かわからないところがありますか??」

 するとそんな一夏の様子に気がついた真耶が一夏に対して話し掛けて来た。
一夏ははっと顔を上げて、どういえばいいのだろうかとあたふたしている。

「あ、えっと・・・」
「分からないことがあったら何でも聞いてください。なんせ私は先生ですから!!」

 はちきれんばかりの胸が更に強調される。男である一夏の視線は教科書からそんな彼女の胸に向いてしまっていた。

 飛鳥も同様に男である。思わず教科書から眼を離しそれを凝視してしまう。すると側頭部に何かが当たる。なんだと思ったら床に落ちたかわいらしい消しゴム。

「消しゴム??」

 それを拾いチラリと横を見る。そこにいるのは幼馴染の一人である布仏本音。

「!!」

 そこには相変わらずのほほんとした笑みでこちらを見ている彼女がいた。だが、眼が一瞬光ったような気がした。思わず背筋に悪寒が走った。なんとなくだが、これ以上凝視しない方がいいと、彼女の家柄を含めて考え、そう思った。

「アーちゃん、ありがと〜」
「え、あ、いや」

 簡単な言葉がまともに喋れない。昔からそうだ。彼女だけではないが、どうしても邪険に扱えない。

 取りあえず本音に落とした消しゴムを手渡し、授業に向かう。

「・・・せ、先生」
「はい、織斑くん!!」

 一夏はどこか申しわけなさそうな声で真耶に対して言う。真耶はというとどんと来いというように身構えている。先生として、ここで意地を見せておかなければと、朝方の失態というわけではないが、威厳を取り戻そうとしているのだろう。

「ほとんど全部分かりません!!」

 すばらしく元気のいい声で言うのだが、その内容があまりにも情けないというか、稚拙というのか。

「え・・・??ぜ、全部、ですか・・・??」

 さすがの真耶も全てが分からないといわれるとは思わなかったらしい、大きすぎる眼鏡がかけてあったところからずり落ちていた。

 飛鳥もあきれた様子で一夏の事を見ている。同じ男として、少々恥ずかしい思いを感じていた。そんなあきれた視線の先にいる一夏は周りの静まり返った状態に焦ったようにきょろきょろと周りを見ていた。

「え、えっと・・・、織斑くん以外で、今の段階でわからないっていう人はどれくらいいますか??」

 まさかと思ったのか、真耶はクラスに対して挙手を求める。しかし、周りにいるものは誰も手を上げることがなく、静かなままである。

 もちろん飛鳥も彼女たち同様に理解している。当然のように、参考書を入学する前に読んでいたことと、軍事学校でも当然のように現代において最強と言われているISもまた、将来は兵器として使われる可能性もあるということで授業で扱われていたのだ。

「・・・」

 まさかというように顔色を悪くする一夏は最後の砦であろう、同じく男である飛鳥に恐る恐る視線を向ける。

「何??」
「あ、悪い。でもお前、これ理解できるのか??」
「当たり前だろ。これくらい予習しておけば簡単だ」

飛鳥の・・・一夏にとってはまさかの裏切りの言葉に頭を抱えてしまう。ここには自分を味方してくれる人はいなかった。そんな会話をしていると、一夏の後ろに現れたのは、教室の後ろのほうで見ていた千冬であった。

「・・・織斑、入学前の参考書は読んだか??」
 
千冬が言っている参考書というのは飛鳥も貰ったものであり、まさに昔の分厚い電話帳のようなものであった。あれを覚えるのははっきり言って骨が折れるだろう。

 ある程度は軍事学校にて習っていたこともあったので覚えるのはそれほど苦労することはなかった。むしろ飛鳥にとってはISというのは敵のようなものである。敵のことを良く知らなければいけないということも、覚えることに対する拍車になっていたのかもしれない。

「古い電話帳と間違えて捨てました」

 やっちまったぜという感じでわるびもなくそう言う一夏。

―――馬鹿じゃないか??
「必読と書いてあっただろうが馬鹿者!!」

 すると案の定一夏の頭には制裁といわんばかりの出席簿による攻撃が炸裂する。頭に大きなたんこぶを作って机に突っ伏す。もう何回になるのだろうか、今日に入って・・・。

「あとで再発行してやるから一週間以内に覚えろ。いいな」

 有無を言わせぬ彼女の言葉。しかし、さすがにそれを一週間で全てを覚えきるのは難しいだろう。それでもこの結果を招いてしまったのは一夏の自業自得である。無理だというが、それでもやれといわれると何もいえない。

「やれと言っている」
「・・・はい。やります」

 さすがに姉であっても逆らえない一夏はとうとうあきらめたのか、そんな表情をして言うのだった。そうして授業は続く。


先ほどの授業は終わり、現在は休み時間に入っていた。飛鳥は授業が終わるや否や、突然話しかけてきた一夏と話をしながら自分の席に座っていた。

何故彼がここにいるのかというと。突然自分以外の男がいるからということでやはり心細いのだろう、話しかけてきたのだ。

自己紹介ですでに名前は知っていた。そして、千冬に対しても『千冬姉』というように、彼女とは姉弟の関係なのだということも知っていた。

そして、何よりこの織斑一夏という少年は馬鹿なのだということも。なぜなら最初の自己紹介においてもとんでもない終わり方をしたり、更には先ほどの授業において、内容としては一般常識であるところすらもわからないと言い、更に極め付きにはあの分厚い参考書を振るい電話帳と間違って捨てたということだ。そんなとんでもないことをしたら、軍事学校ではぶっ飛ばされているだろう。ここは確かにISという兵器をオブラートにつつんでスポーツ競技と呼ぶそれの操縦者を育成するところである。

そのためにそういう教師はいないと思っていたのだが、如何せん。一夏の姉である織斑千冬という人物は、はっきり言って軍で教官をやっているように暴力を普通に使ってくる。それで良いのかよIS学園と当然のように思った。
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