Infinite・S・Destiny〜怒れる瞳〜
□PHASE01 2人以外は女子ばかり
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4月に入り、季節の始まりとともに人々にとっては新しい生活の初めともいっていいだろう。世間で言えば学校では新しい学期が始まり、それぞれが新しい環境にて勉強や部活、友達関係に対して期待と不安を胸に抱く時期である。
そして、ここはIS学園の一年一組である。
新しい学期が始まり、生徒教師とも新鮮な気持ちで今日に臨んでいる。そして、この教室でも入学式が終わり教卓の前に女性教員が立って喋っている。
「私は副担任の山田真耶です。どうか皆さん、一年間よろしくお願いしますね」
そう言っているのは、紹介にもあったようにこの一組の副担任である山田真耶。自己紹介をしているように、現在はSHRが取り行われていた。
そのクラスには当然のごとく、世界で1人だけしかいないISを動かしてしまった男子の姿があった。
織斑一夏である。
そして、そんな織斑一夏をその斜め後ろから見ている人物もまたこのIS学園では珍種とも言える男という性別を持つ人物であった。
紅月飛鳥。奇しくも、彼の家族を奪っていったISという存在に囲まれたこのIS学園へと足を踏み入れていた。しかし、彼自身は織斑一夏とは違ってISを起動させることはできない。
なら何故この場所にいられるのか、それは彼の手首にある紅いブレスレットがあるからであった。それは死んでしまった彼の父親がロボット工学系の大学教授をしていたそのときまで、何時か宇宙で人間が単独で動けるようにというマルチスーツを作っていたのだ。
そして、完成していた試作品こそ彼の今待機状態でいる紅いブレスレットなのだった。あの事件の後に遺留品として生前大学の研究室で使っていたものと、手紙とともに手渡されたのがそれであった。
ただ残された遺産と家、ISとは違うマルチスーツであるMS(モビルスーツ)。だが、その性能ははるかにISよりも劣り、第0世代・・・、動かし、更にブレスレット状態にする事ができるだけでも奇跡であったのだ。
しかし、とある事件でそれが解決の鍵となったためにIS学園へと共生的に送り込まれていた。その理由としてはMSの性能を確かめるためだということ。もしそれがISと同等、それ以上ならば女性にしか扱えないISに取って代わるものになるかもしれないというわずかな希望があったのだ。
そんな飛鳥がこうして一夏と同じクラスにいるというのは、突然このようなことが起き、ましてや女子しかいないこのIS学園に、まさに猛獣の中に生贄として放り込まれた草食動物の兎のような存在である一夏に対する政府からのせめてもの配慮ということだったらしい。
もし二人が離れていたらどうなっていただろうか。最悪一夏はおろか、飛鳥もまたこのIS学園ではたった二人だけの男であるために精神力を抜き取られているかもしれなかったのだから。
そんなIS学園1年1組にいる飛鳥であるが、斜め前、まさに教卓の万前にいる織斑一夏に視線を向ける。女性から見れば世間一般に言うイケメンの部類に入るのだろう。
そんな一夏であるが、先ほどから挙動不審で回りにちらちらと視線を向けている。飛鳥に対しても何度か視線を向けてきた。そのとき正直飛鳥も耐えられるわけもなく、いらいらしていたこともありにらみつけてやるとすごすごと視線を外してしまった。
―――なんだあいつ・・・。
飛鳥は一夏ほど挙動不審ではないが、さすがに周りの視線を一身に浴びるのは耐えられない。イライラがたまる一方である。一夏がそうである様に、こんな誰も知り合いのいないところに放り込まれたら逃げ出したくもある。
だがしかし、飛鳥はここに望んできた。世界をおかしくしたISに対抗しうる存在・・・MSの性能を確かめるために・・・。
ただ数少ない飛鳥の心の助けになるのは・・・。
「アーちゃん、また一緒の学校だね〜」
小声で話しかけてきたのほほんとした調子の女子生徒・・・布仏ほんねが隣りの席だということか・・・。
織斑一夏は男である。
そんな彼は今現在というよりも、今日一日を通してかなり緊張していた。高校の入学式、そして新しい学校、あたら言い教室、新しい生活の始まりである今日この日。
そのようなことで緊張するのは当然なのだが、それは些細なものに過ぎなかった。一夏を最も緊張し醒める大きな要因というのは、一夏とそして理由は違うが一緒に入学してきた飛鳥を除いてクラスメイトが全員女なのだ。
「えっとそうですね・・・、それでは最初のSHRは皆さんに自己紹介をしてもらいましょう」
そういわれても一夏は何を言えばいいのかわからない。唯一二人の男の一人として、何か気の聞いたことを言えればいいのかもしれないが、今この状況で何を言えばいいのか分からないし、更にさすがに滑ってしまい、引かれるのもさすがに嫌だという気がしていた。
得意なことといえば家事全般とマッサージぐらいであり、それも勝手に身についてしまったスキルなのであるが。
「・・・くん、・・・くん、織斑一夏くん」
「は、はい!!」
突然声をかけられたために上ずった返事をしてしまう一夏。
すると周りからは小さくくすくすという笑い声が聞こえてくる。やってしまったと少し恥ずかしさを覚える。
すると教卓に立つ真耶がその一夏の声に少々驚きながらも話しかけてくる。
「ひゃ!?あ、あの・・・お、大声出しちゃってごめんなさい。お、怒ってるかな??もしそうなら、ごめんね、ごめんね!!」
一夏が返事をすると次に帰ってきたのはどういうわけか謝罪であった。どうすればいいのだろうかとこの場の状況に困惑するしかできない。
「いや、その、あの、そんなに謝らなくても・・・、ていうか、自己紹介しますから!!先生、落ち着いてください!!本当に落ち着いてください」
一夏がそういうまで懇願するようにぺこぺこと頭を振り続けていた真耶。この人物が自分たちのクラスの副担任だというのだから、飛鳥も含めた生徒たちは少々不安になってきていた。
「ほ、本当・・・??本当ですか!?本当ですね!?や、約束ですよ??絶対ですよ!?」
もはや立場が逆転しているようにしか見えず、一夏は最終的に押し付けられた形になってしまった。
仕様が無いと思いながら、立ち上がる。
世界にたった1人しかいない男のIS操縦者。それも一夏は世間一般に言うイケメンなのである。
だからこそ、一つ一つの動きに女子たちは敏感に反応する。
それもただ立ち上がっただけで、その視線を一夏のほうに向けるのだ。一夏も一夏でクラス中の視線が自分に集まっていることに緊張感が増す。
そしてゆっくりと息を吐く。落ち着こうというしぐさである。
「お、織斑一夏です」
無難に名前を言う。周りからすれば、すでに有名すぎるために知っているというものだ。
「よろしくお願いします・・・」
無難である。
至極無難である。
周りに対して先ほどの真耶同様に頭を下げては上げ、また下げては上げとまるで腰の低い平社員みたいである。
そんなことをしている間、女子生徒たちから伝わってきたのは、もっと何か喋ってよとか、それだけ??という、一夏に対する話題の期待であった
何よりこの雰囲気は、まさかこれで終わりじゃないよねっと言う無言の圧力みたいなものであった。
―――どうしよう・・・。
すでに緊張からか頭が回らない一夏。助けよ求めようにも周りは知らない女子ばかりであり、もう一人の別の意味で入学してきた男子である飛鳥を見る一夏であるが、鋭い目でにらまれ、これは助けを求めるのは無理だと判断した。
そして、意を決して一夏はこう言うのだ。
「以上です!!」
あまりにも堂々とした声で言ったために、周りで期待していた女子生徒たち全員が椅子から転げ落ちるという状態になっていた。
「え??あれ!?これじゃぁ、ダメでした!?」
一夏は周りで女子生徒たちが一夏に対してありえないという視線をぶつけてくるのに少々気後れしつつ言う。
さすがにいきなりの自己紹介を以上ですで絞める人間がどこの世界にいるのか。一夏もやってしまったということで少々落ち込んでいる様子である。すると突然後ろから人影が一夏に迫る。
しかし、その人物が近づくことに一夏はまったく気がついていない。
「お前は、ろくに自己紹介もできないのか、織斑」
そう一夏の後ろに立っていた女性が、突然持っていた出席簿にて一夏の頭を問答無用で叩く。ものすごい音が教室中に響き渡った。一夏は頭からたんこぶと煙を出して、机に突っ伏している。
一夏は後ろから聞こえてきた声がどうも聞き覚えのあるものだったために恐る恐る後ろを振り向く。そして、そこにいた女性を見た瞬間に飛び出した言葉・・・。
「げぇっ!!関羽!?」
一夏がそこに立っていた女性に対して叫ぶ。ひどく驚いているのは当然だった。そして、案の定、二発目の出席簿による制裁が一夏の頭に降りそそぐ。先ほどよりもひどく鈍い音が響いた。
「ぐふぁ・・・」
「誰が三国志の英雄か、馬鹿者が」
「・・・」
そこにいたのは織斑千冬。嘗て第一世代IS操縦者にして元日本代表。現役時代は、公式戦無敗の記録を残したまま、ある日突然、引退し、それ以後、その舞台から姿を消したのだ。
一夏は姉として、そしては憧れの人物として彼女のIS操縦者時代のことを良く知っていた。しかし、一夏は彼女の仕事についてよく知らされていなかったし、彼自身知らなかったみたいである。それにしても何故彼女がここにいるのだろうかというのが一夏にとっての一番の疑問だった。
彼女は制裁を与えると前に立つ。堂々としているその姿にはあの頃と変わらない威厳があった。
そんな彼女のことを、飛鳥は睨みつける様にして見ていた。
「聞いているのか??織斑」
一夏は相も変わらず千冬の事を見ながら唖然とした表情である。