Infinite・S・Destiny〜怒れる瞳〜

□PHASE14 謎の襲撃者!!
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 ゆっくりと遠ざかっていく朱雀。首を横に振っている。まるで撃ってはいけない。そう言っているかのように。ゆっくりと離れて行く家族の姿。まるでもう二度と会えないと、そして、その最後のお礼を言いに来たかのようだった。そして、消えた家族がいたところから雪片を、零落白夜を起動させた状態で握りしめた一夏がこちらに向かって瞬時加速にて突っ込んできたのだ。

「やめろおおおぉぉぉ!!」
「!!」

 一夏にはすでに飛鳥がトリガーから指を離しているのが見えていなかったのだろうか、否、彼はただ飛鳥が後ろにいた、すでに棄権している二人に対して殺そうと銃口を構えていたのに対してぶちきれていたのだ。

 どうしてそんなことをするんだよ!!

 一夏には分からない。飛鳥もまた同じようにして大切な存在を守りたいと思っていることを。過去に守れず、傷つけ、失ったことがあるからこそ、力を求めた。それでも、目の前で傷ついていくものがいる。それも手が届くところで、そう、彼女たちによって簪が癒えぬかもしれない心の傷を負ったのだ。

「彼女たちはもう棄権してたんだぞ!!」
「何を言ってるんだ、お前は!!」

 切りつけられた雪片をシールドで受け止める。会場では突然同士討ちが始まったことに困惑のざわめきが広がる。

「お前はあの二人を殺そうとしたのか!?何か言えよ!!」

 お互いに後退する。一夏がそう叫ぶのに対して飛鳥は何も答えられない。自分は多少痛めつけてやろうというくらいであった。だが、あの時打ち込んでいたら、明らかに一人は消し炭となり、一人は即死だろう。

「あの二人が何かしたのかよ!!」
「何かした・・・だとオオオォォォ!!」

 何も知らないくせに、いつも加害者側のお前がそれを言うのかと。飛鳥は一夏に言われて戸惑いを覚えていたものを完全に振り捨てた。ビーム砲とレールガンを構え、一夏に向かって放つ。

「!!こんのおおお!!」

 ビーム砲に対して零落白夜を起動させ、切りつける。受け止めたところから、バリア無効化効果のためにビームが掻き消えていく。だが、実弾を殺すことはできないために、白式をレールガンが貫いていく。

 打ち抜かれたところから煙が上がる。それでも一夏は戦いをやめようとしない。雪片を通常の状態へと戻す。

「お前が、お前がそれを言うのか!!」
「な、また出力が上がった!?」

 再びビーム砲が放たれたため、瞬時に零落白夜を起動させる。しかし、先ほどよりも出力が大きいために、なかなかかき消すことができず、徐々に押される。無造作に振り切って、ビームを横なぎに切り裂く。

「何も知らないくせに、お前が!!」

 すばやく換装シルエットを変更し、赤い巨大なスラスターが再び装備される。肩越しから抜き取ったビームサーベルで一夏に向かって切りかかる。

「殺そうとしたとき・・・、何も思わなかったのかよ!!」
「黙れ!!あいつらは多少痛めつけるだけにするつもりだったのに!!」
「何でだよ!!そんなことのためにクラス対抗戦を・・・」
「そ、そんなことだとおおお!!」

 すでに沸点を軽く超えている怒りのボルテージ。飛鳥の連閃が一夏の体を激しく揺さぶっていく。切るよりも叩き付けるといったサーベルの使い方で、雪片で受け止めるも怒りで威力が上がっているそれの衝撃を全て受け止められるわけではなかった。

 一夏の先ほどの怒りは戸惑いにすり変わりつつあった。目の前の飛鳥がその場のことで、多少のからかいの言葉だけでそこまでするとは一夏には思えなかった。いくら短気な飛鳥だからといって、そこは区別をつけている。なら、何故彼はそこまでして彼女たちに対して一方的な制裁にも似た行動を取ろうとしたのか。

「ぐが!?」

 突然腹にものすごい衝撃が走った。飛鳥がものすごい勢いで接近したと思ったら鍔迫り合いの状態からその勢いのまま回し蹴りを一夏に叩き込んだのだ。IS装甲に対して意図も簡単に皹を入れられるような鋼鉄の装甲を持つヴェスティージ。たった一回の蹴りだけでここまでエネルギーが削られるものなのだろうか。ISじゃないからといって心のどこかで見下していた感のある一夏であるが、そんなことはない、IS以上のものだと危機感が勝る。

<いい加減にしないか!!>
「「!!」」

 お互いの武器が鍔迫り合いになった状態でその声が聞こえるほうに向く、そこか管制室であり、担当の教師がいる。当然そこにいるのは織斑千冬。いい加減アナウンスの女子生徒が叫んでも聞こうとしない二人に対して怒鳴り声を上げていた。

<対戦者はすでに棄権している。まさか気づいていなかったとは言わないな??>

 そう言う千冬であるが、はっきり言って怒りでほとんど聞こえていなかった飛鳥はそれを知らなかった。そのためにぎりぎりの所まで、トリガーを彼女たちに向けていたのだ。

『お兄ちゃん』

 あれは空耳だったのだろうか。あの家族は幻覚だったのだろうか。しかし、あの時家族が、そして朱雀がそうしてくれなかったら飛鳥は迷いなくトリガーを引いていただろう。

 ゆっくりとピットへと戻る。勝利したというのに、そこには喜びなどというものが皆無であった・・・。


「「・・・」」

 そこにはただならぬ雰囲気があった。突然ピットから戻ってきて一夏と少しばかり口論になったところで、ちらりと簪の姿が見えたた前に飛鳥は適当に一夏をあしらい、その後を追って行った。例の件の対策に走っているのだろうか、楯無の姿はその場にはなかった。

 廊下を歩いていき、人気の少ないところにて、立ち止まった。一体なんだろうか。そう考える必要はないだろう。簪なら分かっているだろう。飛鳥があそこまでぶちきれていた理由を。

 その理由が自身も関わっているために、こうしてここに来ていたのだ。真っ直ぐこちらを向いている彼女の目は少し睨んでいるようである。とは言え、見上げてくる形であるために、むしろ可愛いというものなのだが。

「な、何だよ。こんなところに連れてきておいて・・・」
「理由はいわなくても分かってるよね??」
「あ、ああ・・・」

 すっかり怒りのボルテージが下がっているために幾分か冷静である飛鳥は苦しそうな表情をして呟く。彼女のためということでやったことであるが、また傷つけるだけだったのかもしれないと思うと、心が限界であった。

「どうしてあんなことをしたの??」
「お前までそう言うのか・・・??」
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