Infinite・S・Destiny〜怒れる瞳〜
□PHASE14 謎の襲撃者!!
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体と時間をそこに置いて、意識体だけが時を越える。そこは空の上であった。頭上を見上げると大空が広がり、白い雲、青い海色の染まった空が飛鳥の目に広がる。こんなに近くで見るのは初めてだった。
『■■■』
『■■■』
飛鳥が口を動かしているわけではない。だが、確かに近くで誰かが喋っているのが聞こえたのだ。声色からして・・・、二人(・・)とも(・・)女性(・・)だろうか。
そして、突然耳障りなアラート音がなる。これはISなのかと驚きが隠せない。何せ飛鳥はISを一夏のように操縦することができるわけではないからだ。なら何故自分がISに乗っているような視点で見ているのだろうか。
何がなんだか分からない。そんな風に混乱していた。その瞬間、飛鳥がハイパーセンサーに移ったものを見て愕然とした。それはミサイルミサイルミサイル・・・。忘れるはずがない。篠ノ之束がハッキングを行い、日本に向かってはなった二千発以上のミサイルがこちらに向かってきたのだ。
ここは過去・・・あの時か!!
ものすごい速さでミサイルに近づいていく白騎士の操縦者と同じ資格から見ている飛鳥はその答えに行き着いた。一体どうしてこうなったのかはどうでもいい、ここで彼女の・・・、白騎士(・・・)の正体を暴いてみせる。そう思った。
白騎士の技量は圧倒的であった。自分の強さが霞んでしまうのではないかと思うくらいの強さであった。まるで世界最強の操縦者である織斑千冬(・・・・)のように・・・。
たった一本の刀剣だけで次々とミサイルを切り落としていく。その後ろで小さく聞こえてくる悲鳴や泣き叫ぶ声。大人も子供も、お年よりも。あの時たくさんの人がいた。
それを、こいつは・・・、こいつらは!!
瞬時加速を使ったかのように、視界がめまぐるしく変化する。上に下に、右に左に、前に後ろに激しい動きを難なくこなすその飛鳥にとって敵である(・・・・)彼女(・・)は圧倒的な強さを飛鳥に、そして世界にそれを見せ付けていたのだ。
そのとき飛鳥は全ての時間が止まったかのような感覚に襲われた。そんな彼の目に映ったのは人ごみから抜け出し、何かピンク色のものを拾い上げた少年だった。
あれは・・・、俺!!
ようやく見つけた宝物を手に取るようにして笑顔になった少年。だが、飛鳥はそんな小さい頃の自分を視界に入れつつ、ハイパーセンサーに映るミサイルが一発、その人々が群れをなして走っている場所に着弾したのを見た。
あれが全ての(・・・)終わり(・・・)であり、すべての始まり(・・・)だった・・・。
どうして、どうしてあれを破壊してくれなかったのだと飛鳥は叫んだ。叫んだところで彼女に聞こえるはずもなく、時間が、過去が書き換えられるはずもない。
爆発が広がっていき、まるで人がゴミのように吹き飛ばされていく。飛鳥は乾いたうめき声しか出せない。人はこんなにも簡単に死んでいくのだ。たったミサイル一発でこれだけの人が死ぬ。
ならISは・・・??
そんなミサイルすら無効化してしまう、現代兵器最強のISは一体なんなのか。篠ノ之束は一体何を目的に作り出したのか。
爆風が人々を吹き飛ばしていく。木々にぶつかり、勢いで体が切断されるもの、木に突き刺さるもの、地面に叩きつけられ絶命するもの・・・。幼い頃の飛鳥が吹き飛ばされ、地面をすべるようにして倒れる。擦りむいたところから痛々しい傷が見え、血が流れていた。
そして、飛鳥は確かに見た。ミサイルが着弾する前、飛鳥が戻ってくるのを待っている家族のことを。心配そうにしている母親。そんな母親に声をかけている父親。そして、自分が落としてしまった携帯を持ってきてくれる飛鳥のことを待っている朱雀。
そんな、三人に向かっていく爆発の余波。飛鳥は体を動かしたかった。だが、そのからだはなく、意識だけの存在である飛鳥は、あの時知らなかった光景を目の当たりにする。
「あ、あああぁぁぁ!!」
余波に巻き込まれた家族が一瞬にして肉片へと変わり果てていく。あの時あった心配そうな表情も、気遣っている表情も、笑顔も全て奪われたのだ。飛鳥はただ呆然としていた。
それと同じくして、幼い飛鳥は周りを見て呆然としているようだった。ふらふらとまるで夢遊病者のように、おぼつかない足取りで歩き始める。飛鳥が歩く道端に死体が山のように積み上げられている。
柔らかい肉が踏みつけるたびに、背中が冷えるような音を立てていく。更にはこちらに向かって助けを求めるかのようにして手を伸ばしてくるものもいた。そんな人に対して、口が動いたのみ手、おそらく誤ったのだろうと思った。すぐにそのものをまるで地面の一部かのようにして踏みつけ、歩いていく。ばたりと倒れるその人はおそらく、死んだのだろう。
その間にも、白騎士はミサイルを鬱陶しいと思うようにして刀剣で切り裂いていく。すでに飛鳥はそれには目を向けず、あの時の自分の事を見ていた。
幼い飛鳥は崩れ落ちるようにして膝をつく。そのとき締まっていた朱雀の携帯電話が滑り落ちる。それが近くに落ちていた汚れてしまったかわいらしいワンピースだったのだろう服の切れ端が引っかかった一本の腕の傍に落ちる。
ゆっくりとそれを抱き上げる。妹の温もりなのか、それともミサイルの熱のものなのかは分からない。だが、あの時は信じられなかったのだ。たった一瞬で家族を失うだなんて、誰が想像、信じられようか・・・。
『■■ちゃん。そろそろ、軍のほうも来るから、そっちのほうもお願いねー』
『束、これで本当にいいのか??』
『オッケー、オッケー。全ては順調だよ』
その瞬間飛鳥の胸に怒りがあふれ出した。何が順調だと。人が死ぬことも、全て想定内だったというのか。世間に知られていなければ、それでいいのかと。
向こうから戦闘機やら、更に海上にはイージス艦など、軍艦までもが現れていた。とはいえ白騎士にはそんなのはまるで赤子の手を捻るようなものであろう。動き出す前に白騎士が視線を下に向けた。
「!!」
飛鳥の目に映ったのは、おそらく白騎士の操縦者が見たのと同じなのだろう。まるでこちらを射殺さんとするくらいの怒りに染まった瞳を向けているあの時の自分がいたのだから。
俺は、あの時こんな目をしていたのか・・・。
それは今でも変わらない、否、あのときよりもおそらく恨みなどは深まっただろう。そして、白騎士はこのときこんな高度なところから自分のことを見下していた(・・・・・・)のだと知った。
そして、一瞬にして意識は現在へと戻る。トリガーを引こうとする。だがその瞬間飛鳥の目の前に現れたのは父、母、そして妹の朱雀であった。
「あ、あああ・・・」
まるでこちらを睨むようにして見て来る。どうしてそこにというよりも、どうしてそんな目を向けてくるのだという困惑のほうが大きかった。そして、一瞬にして、自分がついさっき何を見たのかということから理解する。
俺は殺すのか・・・。
あの時のように・・・、まるで白騎士が自分の家族を殺したかのように。ゆっくりと飛鳥に近づいてくる家族の姿を見て、そんな目で俺を見るなと飛鳥はたじろぐ。だが、家族の後ろにいるのは簪を傷つけた者たち。そんな彼女たちに、飛鳥は・・・。
『お兄ちゃん』
「!!」
飛鳥の目の前に朱雀の姿がフッと現れる。その幼い手が、トリガーに手をかけているヴェスティージのそれにそっと置かれる。その瞬間、ゆっくりとトリガーから指が離れていく。一体何が起きているのかと自分の意志とは違う行動をする手に困惑を隠し切れない。