Infinite・S・Destiny〜怒れる瞳〜

□PHASE01 2人以外は女子ばかり
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「な・・・なんで??」
「あ、“織斑先生”もう会議は終わられたんですか??」
「あぁ、山田君・・・、クラスへの挨拶を押し付けてすまなかったな」
 
真耶はたしかに言った。

“織斑先生”

「大丈夫です、これも副担任の仕事ですから」

しかし二人はそんな真耶と千冬の会話を聞いていなかった。織斑先生という言葉を聞いて一夏はこう思った。

―――まじかよ・・・。

そして、教壇前に立つ千冬がじろりと教室内にいる生徒たちを見渡してから口を開く。

「諸君、私が織斑千冬だ!君たち新人を一年で使い物になる操縦者に育てるのが仕事だ。出来ない者には、出来るまで指導してやる。逆らってもいいが私の言うことは聞け、いいな??」

 何というまるで暴君じみた言葉であるが、そこには消して見捨てないという、確固たる自信を持っているからいえるのだろう。それが嘗て世界で無敗を誇った彼女だからいえるのか、それとも何か別の理由があるのか。

―――むかつくな・・・。その言い方。

 しかし、飛鳥にとって知冬のような存在はむしろ嫌う部類に入っていた。上から押さえつけるような、そんな高圧的な言い方、自分が正しいというような言い方。例えそれが正しいことであっても、言い方が気に入らなかったのだ。それは中等部を軍事学校で過ごしていたころも変わらなかった。

―――いくら世界最強だからって・・・。

しかし、その時飛鳥を含め、一夏も失念していた。女子というのは特に女子高生というのは珍しいものや有名人が大好きなのだ。

「きゃあああぁぁぁ!!千冬様、本物の千冬様よ!!」

そんな彼女の歓喜の悲鳴に続いて次々と少女たちの声が上がる。

「ずっとファンでした!!」

 教室中の女子生徒たちがざわざわと騒ぎだした。一夏は突然のことに驚いて周りをきょろきょろと見ている。騒いでいるのは飛鳥と一夏以外の女子全員であるが・・・。それにこのクラスだけでなく、ここにいる二人以外、この学園の敷地内にいる人間はすべて女性である。

 正直慌てて耳をふさいでいたために一夏のように混乱することはなかった飛鳥。だが、そんな状態であっても十分耳がおかしくなるような声量であった。正直言って怒鳴り散らしたかった。

「ど〜ど〜」
「俺は馬か!!」

 そんな飛鳥の隣りで、まるであやすようにしてくるだぼだぼの制服を着ている本音がいた。邪険に扱えないそんな雰囲気を持っている。

 だが、彼女自身も昔からの幼馴染であるから飛鳥の扱い方を良く知っている。彼は怒っているのではなく照れているのだ。

「うふふ〜。相変わらず、アーちゃんは面白いね」
「何が面白いんだよ!!」

 やや声が大きかったが、それ以上に周りの女子生徒の声が大きかったので周りには聞こえていなかった。

「私、お姉様に憧れてこの学園に来たんです!!北九州から!!」

―――よくそんな遠くから来たな・・・。

ここにくるためにどれだけの労力がかかったか。

「あの千冬様にご指導いただけるなんて嬉しいです!!」
―――・・・。

嘗ての最強のIS操縦者に直接教えてもらえるのだ。こんなこと、めったいない。

「私、お姉様のためなら死ねます!!」
―――はぁ!?こいつ何言ってるんだ。

 それだけ千冬を慕っているということだろう。しかし、その当人はというと、かなりうっとうしそうな表情をしている。言われて嫌なわけではないが、さすがにここまですごいと、逆に引いてしまう。

「・・・毎年、よくもこれだけ馬鹿者が集まるものだ。感心させられる。それとも何か?私のクラスにだけ馬鹿者を集中させてるのか?」

 そうあきれたような言葉を吐くが、それでも鍛えがいのあるという意味ありげな笑みを浮かべているのを見た飛鳥の眼は狂ってはいないだろう。

「きゃあああぁぁぁ!!お姉様!!もっと叱って!!罵って!!」
「でも時には優しくして!!」
「そしてつけあがらないように躾をしてえええぇぇぇ!!」

 ここまでくればあきれを通り越して感心せざるを得ない。

するとそんな女子生徒たちを落ち着かせ、再び一夏をにらむ。

「で??織斑、挨拶も満足に出来んのか??」
「いや、千冬姉、俺は・・・」
「織斑先生と呼べ」
「・・・はい、織斑先生」

 怒られている一夏は相変わらずだと内心苦笑いの秋也。

「え・・・??織斑くんって、もしかして、あの千冬様の弟・・・??」

 もしかしてもしなくても、彼女と彼は血のつながった正真正銘の姉弟である。

「それじゃあ、世界で初めて男でISを使えたっていうのもそれが関係して・・・」
「それはない」

ばっさりと切る千冬。その質問した女子生徒は慌ててすいませんと訂正を入れて座る。

「まあいい、織斑、続けろ」
「え??ああ・・・」
 
一旦座っていた一夏は再び、千冬の言葉でその場に立たざるを得なくなってしまった。当然あんな挨拶では駄目だと思われたのだろう。そしれ再び周りの生徒たちが一夏に注目の視線を向ける。すると、その生徒たちからの死線の仲に、見知った懐かしい顔を見つけたのだった。

「箒??」
 
そこには6年ぶりに合うのだろうか。幼馴染であり、小学校時代に突然転校してしまった篠ノ之箒がそこにいた。一夏が名前を呼ぶが、プイっと顔を横にそらしてしまう。

―――あ、あれ??嫌われたのか??

そんな風に一夏が考えていると、千冬の出席簿による粛清が飛んでくる。

「痛!!」
「お前は、自己紹介もまともに出来んのか??」
「いや、だから千冬姉・・・俺は・・・」
「学校では、織斑先生と呼べ・・・。まったく何度言ったら学習するのだ、ばか者」
―――確かにそれは言える。

 あきれた様子で千冬。一夏はそれから無難な自己紹介を何とか終わらせ、男では二人しかいないので当然のように順番は飛鳥へと来る。

「次、紅月」
「・・・はい」

 出席簿を見て名前を言う千冬の言葉に返事をして立ち上がる。

 一夏同様に男だということで少女たちの視線を一身に浴びる。さすがにこれはきつい。

「紅月飛鳥です」

 無難に名前を言う。

 やはり周りからは期待の視線を向けられている。

「趣味は読書。得意なことは料理。一般中学には通わず短期で軍事学校に通っていました」

 飛鳥は小学を卒業するとともに、そのまま一般の中学校に通うことはなく短期の軍事学校に通うことにしていたのだ。普通であればそのまま高等部・・・そして軍へと向かうはずであったのを蹴って、飛び級で卒業してきたのだった。

 開発部門は壊滅的であった飛鳥であるが、戦闘部門においては圧倒的な強さを誇り、更にそのときの教官が女性であり、あまりに高圧的であったために喧嘩をふっかけてぼこぼこにしてしまったのだ。

 あまりに中等クラスの枠からはみ出ていたためにそのまま短期で高等クラスへと進み、そのまま卒業していた。だが、あのまま軍に入ってもおそらく飛鳥には居場所はなかっただろう。

 ほとんどの軍の兵力というのはISである。現代平気であるミサイルなどがあの時白騎士に通用しなかったようにISには通用しないのだ。そのためいくら飛鳥にその力があろうとも、ISを起動させられない彼は不要だったのだ。それを知っていたし、もともとそれ以上軍に進もうとは思っていなかった。

 更に大きなきっかけとしてはあの時IS強奪事件に巻き込まれ、始めてISとMSで戦った時だ。それがあったからこそ、重かった鉛のこの足を一歩前に踏み出すことができたのだ。

「よろしくお願いします」

 一応一夏のようなへまをしまいと考えておいた普通の自己紹介をする。ここであえていえば紅月飛鳥の容姿というのは一夏のような純粋にかっこいいイケメンとは違い、雰囲気的に怖い、冷徹そうだという印象を与えるがイケメン・・・簡単にいえばかっこいい不良のような感じなのだ。

 赤茶色の髪の毛に赤色の瞳はイライラが募っていたのかやや不機嫌そうに釣り眼になっている。そんな彼に睨まれるような形になっている。普通は怖がるなどするだろうが、生憎ここにいる女子生徒たちはほとんどが女子中学校などと、ほとんど男に対する免疫のない。

「「きゃあああぁぁぁ!!」」
「えぇ!?」

 突然の悲鳴に近い歓声。思わず後ずさりしてしまうくらいに衝撃を受けてしまった。彼女たちは怖がるどころかむしろ好意的であった。

―――な、何が起きてるんだ・・・。

 飛鳥は突然のこの状況に戸惑っていた。自分はかなりいらだっていたのを自覚していた。だが、それを表に出さないという基本的なことを忘れ、かなり顔に出ていただろう。だから、かなり目つきはにらむようなものだった。それなのに彼女たちは関係ないとむしろそれがいいなどという風に高評価を受けた。

「な、何がどうなって・・・」
「アーちゃん、人気者だね〜」

 などと本音がさらに周りのテンションを上げるような発言をする。それは何か。彼女の飛鳥に対する呼び方である。

「何何!!今布仏さん“アーちゃん”って呼んでたよね」
「キャー!!何々二人はどんな関係??」
「まさか・・・」
「ねえねえ、教えてよー!!」

 女子たちがそれを聞き逃すはずがなかった。更にボルテージが上がったこのクラスの熱気はすさまじいものだった。

「アーちゃんと私は〜、幼馴染だよ〜」
「おい本音!!」

 このときにそんなことをいってしまったら更に事態が悪化するのは目に見えている。そのことを鈍感な飛鳥が知るはずもなく。その時本音に対してそう言ったのは恥ずかしいからであり、けしてそれがこの後更に事態を悪化させることになるとなど思っても見なかったのだ。

 本音の幼馴染という言葉に更に悪化したクラスの熱気。周りでは勝手に恋人同士などという捏造を始めているものもいた。

 さすがにこれはまずいと思ったのだろう。おどおどしている真耶。隣に立っていた千冬のいい加減にしろという一括でその騒ぎはぴたりと収まったのだった。
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