Infinite・S・Destiny〜怒れる瞳〜

□PHASE14 謎の襲撃者!!
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 アリーナの中央に向かう。そこには綾崎と神崎という令嬢とそれに付き従うものがいた。彼女たちの前には飛鳥のタッグパートナーである一夏の姿もある。すでに雪片弐型を展開していることからやる気は十分だった。

「あら、遅かったわね」
「怖くて尻尾を巻いて逃げたのかと思ったよ」
「お前たち、いい加減にしろよ。言ったとおりだろ、飛鳥は来るって」

 どうやら一夏は飛鳥が来るまであることない子と彼女たちから言われていたらしい。若干苛立っているのが見えた。彼女たちから飛鳥の表情は見えない。逆に飛鳥からは彼女たちの顔が見える。

 捻り潰してやりたいと思った。右手にマウントされていたビームライフルを構える。目の前にいる二人はそれぞれラファール・リヴァイブと打鉄というフランス産と純国産の第二世代型のISであった。

 機体性能だけを見ればこちらのほうが俄然有利であった。しかし、機体性能だけでなく、その乗り手の操縦技術がともわなければ、ISというのはただの鉄屑に過ぎないのである。

<それではクラス対抗戦第二試合。一組紅月、織斑ペア対綾崎、神崎ペアの試合を開始します>

 アナウンスがそう叫ぶのと同時に試合開始のブザーが高らかに鳴らされた。その瞬間すばやくセーフティーを解除した飛鳥はビームライフルで綾崎の起動させているラファールが構えていたサブマシンガンの一丁を打ち抜き爆発させる。突然の武器破壊に驚いたのか悲鳴を上げていた。

 それに思わず反応して振り向いてしまった打鉄を起動させていた神崎。それを隙ありという形で一夏が雪片を振り上げ、接近する。はっとして気づいた彼女であるが、反応が遅れた分、受け止めた刀剣同士の押し合いは一夏の圧勝だった。

 大きく吹き飛ばされる彼女に向かって、中距離から正確な射撃が襲いかかる。次々と装甲をえぐられるたびに、シールドエネルギーが削られていく。このままではと焦りを覚える。

「嘗めるな!!」

 両手にショットガンを構えた綾崎がまるで鬱陶しいハエを追い払わんとするようにして撃ちまくる。一夏は慌ててスラスターを噴かせてそのショットガンの嵐のルート上から離脱する。その後ろにいた飛鳥に向かって次々と銃弾が打ち込まれていく。

「数うちゃ当たるってか!?そっちこそ嘗めるな!!」

 その瞬間一気に怒りの沸点を超えた飛鳥の頭の奥で何か種子のようなものがはじけた。その瞬間飛鳥の瞳からハイライトが消える。先ほどよりも異常なまでに回りの動きが手に取るようにして見える。もちろん向かってくるショットガンの銃弾もまた、到来よりも遅く感じるくらいである。

「な!?」

 乱射した綾崎が自らの銃弾が次々とヴェスティージの頭部に装備されているCIWSによって着弾する銃弾のみ打ち落とされるのを見て、驚きの声をあげる。そんな荒業を見せた飛鳥に対して観客は沸く。

 それでスラスターが噴く音が聞こえなかったのか、突如として彼女の頭上に現れた一夏の構える雪片が振り下ろされる。光り輝いているビームサーベル状態であるそれは、単一能力である零落白夜が起動している状態であった。

 近接武器を出す時間がないために、弾切れ寸前であった二丁のショットガンで受け止めようとする。だが、サーベルの熱でショットガンの銃身が真っ二つに切り裂かれる。

 銃身を切ることにやや時間が取られたことで掠る程度に終わる。

「くっ!!掠っただけかよ」
「か、掠っただけでこんなに!?」

 しかし、一夏と綾崎の反応は全くの反対のものであった。綾崎は一夏の白式のことを知らない。つまり、一撃必殺の単一能力である零落白夜を知らないのである。

 だからといって、綾崎も馬鹿ではない。当然選ばれたのはそれだけ実力があるから。すぐさま一夏の雪片が危険であると察知して後退する。その代わりに打鉄・・・近接主戦のそれを起動させた神崎が飛び出してくる。

 ハイパーセンサーに移った機影を見て、すぐさま一夏は体をその方向へと向ける。雪片と刀剣がぶつかり合う。激しい火花が散る。しかし、白式の馬力のほうが上であるのがここでも出る。

「くっ!!第4世代に乗ってるからって!!」
「この!!」

 馬力で勝っている白式であるが、ISの経験は神崎のほうが上回ったようだ。出力の調整で一夏のことを有利に弾き飛ばす。すぐさま体勢を立て直す一夏。そこにサブマシンガンの銃弾の嵐が飛び込んでくる。

「くそ、まずは俺ってか」
「落ちろ!!」

 接近を許した一夏に振り下ろされたラファールに多彩に搭載された武装の一つである近接ブレード。鍔迫り合いになり、お互いに後退する。その間にも銃弾の嵐が一夏に向かう。

「やらせるかよ!!」

 そこにわって入った飛鳥が大型シールドをかざして一夏の前に立つ。銃弾をもろともしないその強固なシールドが二人を守る。

銃弾を受けてもなお、傷すら見えない強固なシールド。苦々しくそれを見ている二人。その二人にライフルを牽制で連射し、遮断する。

「お前たちは・・・、落とす!!」
「あ、ちょっと待て、飛鳥!!」

 ライフルをマウントすると、勢い良くスラスターを噴かせた飛鳥がビームサーベルを展開して飛び出していく。慌ててそれを追いかける一夏。

「な、何よ!!」
「男のくせに!!」

 彼女たちにもプライドがある。それは女尊男卑という風潮が生み出したものだ。女性が男性に負けるわけがない。そう思い込むことで、彼女たちはこの劣勢の中、何とか落ち着こうとしていたのだ。

「落ちろ!!」

 しかし、まるでどこまでも追ってくるかのような飛鳥の気迫が彼女たちの動きを鈍らせる。向かってくる相手に対して、防戦一方である。顔は見えないはずなのに、ものすごい怒りの瞳をこちらに向けている。そう思わざるを得なかったのだ。

「きゃあああ!!」

 ビームサーベルが一本目の近接ブレードを切り裂き、そのまま綾崎のラファールの装甲をえぐる。斜めに切られたそこからISスーツが見える。

「こんな、こんなことが!!」

 綾崎には信じられなかった。今まで自分の周りの男は自らを持て囃し、敬うものばかり。それがこの時代において当然だと思った。しかし、目の前の男は・・・飛鳥はどうか。そんなことは関係なく、自らに突っかかってくる。信じられなかった。

「男に女が負けるはず・・・」
「まだそんなこと言ってるのかよ!!」

 青とダークグレーの機体がものすごい勢いでこちらに向かってシールドアンカーを射出する。がっちりと絡め取られ、それを遠心力で振り回される。視界がぐるぐると高速回転するために、焦る。

「な、な、何を!?」

 そう焦っているのもつかの間、彼女の体に走るような衝撃と共に痛みが与えられる。まるでプレス機に放り込まれたような、体がぺちゃんこにされるような感覚であった。突然の衝撃が脳を貫通したのか、脳震盪を起こし、一瞬意識を飛ばしていた。

 すぐに意識を取り戻したが、目を動かして自分が固い何かに叩きつけられたのを知る。アリーナに張り巡らされている。観客の保護を前提としたシールドバリアだった。

「がっ・・・。何なのよ・・・」

 そう呟いている間にも再び、無重力感覚を味わい、放り投げられた体勢を立て直す暇もなく、高速で接近を許し、飛鳥が振るうビームサーベルが片方の脚部を切り裂き、吹き飛ばす。

「ひぃ!!」

 足が切り飛ばされた。ISは通常操縦者の体の延長である。そのために彼女のISの脚部が吹き飛ばされたとて、体には異常はないが、それを初めてやられるものにとっては理解していても恐怖が勝る。

「ブラストシルエット!!」
「!!」

 その瞬間ヴェスティージの背信部にあった巨大なスラスターバックパック、フォースシルエットが解除され、落ちていく途中で粒子化する。そのまま体の上に現れた巨大なビーム砲、レール砲、ミサイルランチャーが見えるバックパック、ブラストシルエットからドッキングセンサーが放たれ、装備する。

 その瞬間青から暗緑に変わる機体色。それを始めてみたものたちからすれば歓声ものであった。一気に消費されていたエネルギーを回復する。重火力武装を引っさげ、再び綾崎へと襲いかかる。

 恐怖の権化であるヴェスティージが迫る。更に恐怖をかき立てられる綾崎は逃げるようにしてアサルトライフルを打ちまくる。しかし、スラスターを巧みに使った回避行動に掠ることすら叶わない。

 何で当たらないのかと叫んでいる綾崎であるが、握っていたライフルをビームが貫き、爆発する。もはや武装がいくらあっても勝ち目がない。そんな風に確信させられていた。

「痛いか!?当たり前だろうな。でも、簪が受けた傷は、そんなもんじゃない!!」

 肩越しから巨大なミサイルランチャーを構える。そこから無数のミサイルが追尾機能付きで綾崎のラファールへと向かっていく。

次々とミサイルが着弾していく。何度も何度も・・・。ラファールの装甲がもはや原形をとどめていないようにも見える。爆煙にまみれ、激しく咳き込む。そんな彼女を守るために一夏を振り切って打鉄を纏った神崎が向かってくる。性根は腐っていても、あくまで彼女を庇い立てする・・・。

 彼女がまだ戦闘に参加していたということに対して、飛鳥は歯噛みする。一夏がここまで来て討ち取れていない。流石に経験者は違うらしい。だからといって・・・。

「お前もだったな・・・」

 その瞬間、レール砲に内備されている二本のビームジャベリンを連結させる。それを槍投げの要領で向かってきた彼女に対して投擲する。それはまるで光の矢の如し。

「は、早い!!かわしきれ・・・」

 ハイパーセンサーでようやく視認できるほどの高速スピードで投擲されたビームジャベリンが打鉄に突き刺さる。ビーム刃が装甲をえぐり、操縦者が危険だということで、絶対防御が発動し、シールドエネルギーがゼロとなった。

 機体がものすごいスパーク音を放つ。操縦者自身には絶対防御のおかげで怪我はないが、彼女にとっての恐怖はまだ終わっておらず、むしろここからであった。

 しかし、神崎のISが解除されたところはアリーナの地上からかなり高度にある上空である。すでにISを纏っていない彼女がそこにいれば当然その後どうなるかは決まっている。数秒の無重力を感じていた彼女であるが、その瞬間、まるで地上から見えない無数の腕が彼女を引き摺り下ろそうとでもしているように、ものすごい速さで落ちていく。

「い、いやぁ・・・、いやあああぁぁぁ!!」
「明美!!」

 綾崎が落ちていくタッグのパートナーである彼女を追いかけていく。ものすごい速さで地上との距離がなくなっていく神崎は悲鳴をあげることすらできずにもはや死を覚悟している。

 しかし、ぼろぼろで、残りシールドエネルギーが少ないラファールにて、綾崎がぎりぎりで瞬時加速を使い彼女を救う。どうやらなかなかの実力があったのは確からしい。

 助かったことに綾崎に抱きかかえられているのを見てわっと泣き出す。その近くには同じく離れたところから瞬時加速をして向かってきていた一夏がきていた。とっさのことで瞬時加速を会得したらしい。

 それが普通の訓練や模擬戦であったならよかったのだが・・・。突然二人の機体にアラート音がなる。ロックされたと映し出された。まさかと思い一夏は慌てて上空を見上げる。

「何でだよ・・・」

 無意識に雪片を握り締める手に力が入る。一夏の目に映ったのはこちらに対してためらいなく銃口を向けているヴェスティージの姿であった。このままトリガーを引いたとなれば、すでにISを解除されている神崎に関しては死は免れない。

「お前たちが・・・、お前たちが簪を傷つけたんだ!!」

 そう叫んだ瞬間、周りと共に自らの動きも緩慢に思える感覚に陥る。ゆっくりとトリガーを引こうとする。その瞬間飛鳥はまるで一瞬にして時を越えたような感じがした。
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