Infinite・S・Destiny〜怒れる瞳〜

□PHASE12 星空
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 その日の放課後になっていた。飛鳥は一夏、箒、セシリアとともに予め予約を入れたアリーナにて訓練をしていた。

 4人ともそれぞれのISスーツに着替え、飛鳥は自身の唯一機であるMSのヴェスティージを、一夏は白式を、セシリアはブルーティアーズとそれぞれの専用機を起動させる。

「・・・」
「どうしたんだ??」
「別に・・・、何でもないさ」

 一夏が起動させ、纏う白式のそのフォルムを見ただけで再び胸の内からどす黒い何かが溢れそうになった。どう見ても似すぎているその姿。一夏は無言で自分を睨みつけるようにして見てくる飛鳥に対して、どうしたのかと尋ねてくる。聞かれた飛鳥はなんでもないと、そっけなく返す。一夏も鈍感なのか、楽天的なのか、一々そのような態度を気にするようなことはしない。

 そんな様子を見ていたセシリアと箒は?を頭の上に浮かべていた。箒もアリーナを予約するついでに、自身もタッグの特訓に参加するということで打鉄を借りる予約を入れていたようだ。そのために彼女は今黒い装甲の打鉄を起動させ、纏っている。

「それにしても・・・」
「飛鳥さんの機体ですが、また違った形になっていますのね」
「以前のよりも武装が火力重視なのか・・・??」

 一夏が話を切り出した。それは飛鳥の機体であるヴェスティージの背信部に装備されるバックパックが以前のものとはまた違った形のものであったからだ。起動させたVPS装甲の色もまた、赤とダークグレーのツートンから、暗緑とダークグレーのツートンに変わっていた。

 高出力ビームライフルやアンカー付き巨大シールドはもちろんであるが、両腰にあった折りたたみ式対艦刀やビームサーベルは排除され、その代わりにバックパックであるそれによって巨大なビーム砲、レールガン、ミサイルランチャーを装備し、完全なロングレンジようになっていた。接近を許したときのためということで、フォールディングレイザー対装甲ナイフの他にビームジャベリンも装備されていた。

 完全な後方支援型の機体へと変わっていたそれは、一夏の白式が雪片弐型という唯一の近接武器であるためにタッグを組むとなれば後方から一夏を支援するのがベストだということでこのバックパックを使用していた。

 箒の言うとおり、完全に火力重視であるために、他のバックパックを装備したときよりも機動性は落ちている。とは言え、それがなくともお釣りが来るだけの威力と多彩な武装があった。

「じゃあ、時間も有限だからな。始めようぜ」

 そう一夏が切り出し、タッグマッチの試合の訓練を始める4人。もちろん組み合わせは出場することになった飛鳥と一夏、その相手をするのはセシリアと箒である。お互いに即席であるが、残り時間のないこの状況で仕上ていかなければいけない。

 とは言え、初めてタッグを組むとなった4人。連携という言葉は皆無であった。

「うわあああぁぁぁ!!何でこっちにミサイルが飛んで来るんだよ!!」
「何やってんだよ、一夏!!ハイパーセンサーがあるんだから後ろも見えるだろ!!」
「攻撃をかわしながら、そんなことができるか!!」

 セシリアのブルーティアーズから射出された四基のビットから放たれるレーザー攻撃を動き回り、回避する一夏。全てを回避しきることなど不可能であるため、数発装甲を貫き、シールドエネルギーを失う。

 その後ろから援護としてミサイルを放った飛鳥であるが、そのミサイルの進行ルート上に突如として現れた一夏に命中し、一夏に大ダメージが襲う。

「覚悟!!」
「こんのぉ!!」

 打鉄に装備された近接ブレードを振り下ろしてくる箒。掛け声もあるために、すぐに反応する一夏が雪片でそれに対応する。鍔迫り合いになり、お互いの表情に更に真剣味が表れる。

 お互いに剣道をやっていたために、その実力がISに反映される。しかし、徐々にであるがISの性能差で一夏が押し始める。

「おりゃあ!!」
「く!!」

 力任せに雪片を振り抜いた一夏。振り切られた箒はその勢いのまま一旦後ろへと後退する。視線を外したその瞬間。突然警戒を知らせるアラートがなる。はっとして上を向くとそこには更に上空へと上がっていた飛鳥・・・ヴェスティージが両腰と肩からビーム砲とレールガンを構えていた。

「いっけえええ!!」
「な!?」

 全砲門が一斉掃射される。赤と黄色の軌跡が黒い装甲の打鉄を纏う箒に突き刺さる。一気にシールドエネルギーを削られる。

「箒さん、前に出すぎですわ。それでは援護のしようがありませわよ」
「う、うるさい」

 こちらもこちらで連携の取り様がない状態が起きていた。一夏と剣を交えることができることのうれしさに突っ走っていた箒。突然向こうは付け焼刃の連携で大幅に箒のシールドエネルギーを奪っていった。それに対して冷静であれば考えないことであるが、二対一などと卑怯だと考えてしまった。

 セシリアがしきりに叫んでいるが、再び刀剣を握り締めた箒がスラスターを噴かし、一夏へと飛び込んでいく。雪片を構えていた一夏であるが、突然スラスターを切ったように、下へと落ちていく。

「何をしているんだ、一夏!!」
「これでいいんだよ」
「なに??」

 疑問を表すしぐさの後、すぐさま一夏がいたそこの後ろにいつの間にか現れていた飛鳥がその両手でビームジャベリンを構えていた。

「こんのおおお!!」
「な!?」

振り上げられたビームジャベリンを渾身の力で振り下ろし、箒に向かって攻撃を放つ。とっさに刀剣を滑り込ませ、受け止めようとしたが、ヴェスティージのパワーに押され、下に叩きつけられる。

「が!?」

地面に叩きつけられ、体に激しい激痛が走る。いくらISに守られているからといって、全てを受け止めきれるほど、完璧ではない。叩きつけられたことで絶対防御が発動し、箒の打鉄のシールドエネルギーが完全にゼロとなった。

「情けない・・・」

思わず唇をかみ締める。箒の瞳が向く方向には今も三人の操縦者たちが戦っている。それなのに自分はこうして無様に地面に這いつくばっている。確かに生身で戦えば一夏にはまだ勝てるだろうし、セシリアにも、彼女がどんな訓練を受けているか分からないが、勝つ自信は持っている。軍学校を卒業している飛鳥に対しては到底敵わないだろうが、それでもISに乗ればこうも違うのかと・・・。

「私は一夏の・・・」

傍にいられないのだろうか・・・。そうふと思ってしまった。ズキリと胸が痛む。これは恋する乙女だからこそ、好きな人の傍にいられない、自分に入る資格がないのではないかと思うそれが胸に突き刺さり、ズキズキと痛みが走る。

それに一夏にとってはセカンド幼馴染である鳳鈴音という少女が転校してきた。箒にとっては更に恋敵が増えるということで戦々恐々としていた。朴念仁である一夏であるために、早々ころりというとは思えないが、それのせいで自分の思いもなかなか伝わらないと思うと、やりきれない。

更にその鈴もまた、セシリア同様に国から支給されている専用機を持つ国家代表候補生である。つまり、彼女には国家を代表するほどの実力があるということだ。

思わず顔をしかめる。そう言う自分はどうか。高々ISを生み出した稀代の天災、篠ノ之束の妹だからということで、このIS学園に入れられた。もちろん自分にもISの操縦に対するランクがあったとはいえセシリアや鈴といった代表候補生のAには遠く及ばないCであった。

力がほしい・・・。力さえあれば一夏と一緒に、その傍にいられるのではないか。そう思いながら、空にいる一夏に向かって動くはずのない腕を伸ばすのであった・・・。
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